むだぼね(主鍵)
2018/02/21



鍵介はとてもとても可愛いので、涙目になりながら振り上げた掌で僕の頬を張った時ですら、ぱちん、となんだか幼くて可愛げのある音がするのだ。叩かれたことそのものより、僕の頬の皮膚に引っかかってしまった彼の爪がつけた浅い傷のほうがどちらかと言えばひりひりと痛むのだけれど、悲しくはなかった。所詮、アバターの一部が僅かに欠けてしまっただけの話。精神的な不感症だなんだと揶揄されたところで、僕はだからどうしたと首を傾げて、砂糖をふたつと少しのミルクを入れた珈琲を飲むのだろう。今日も明日も、明後日も。
「だって先輩は、僕を、僕だけを好きだって言ったのに、別の女の人と」
「誰だろうと求められれば応じる。でも、ちゃんと愛してるのは君だけ。神に誓ったっていい」
「おかしいですよそんなの。ここには神さまなんていないんです」
「……そんな寂しいこと言わないで」
楽園で夢を見ることは子どもの特権のはずなのに。神などいないと吐き捨てる彼の爪先には飴色のリアリズムがこびりつきつつある。これは汚染だ。救いを手渡さねばならない、僕は鍵介の頬を濡らす涙を指先で拭った。

「僕が君の神さまになってあげられたらよかったんだけどね」




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