冷たい夜が笑うので(主カギ)
2018/01/14



月の美しい夜、隣を歩く君に愛してると言ったらひどく悲しそうな顔をされた。

「あなたには、あなただけには、愛とか恋とかそういう言葉、使って欲しくなかった」
「なんでさ」
「その目が……」

月明かりに照らされて地面にまっすぐ伸びたふたりの長い影を見つめたまま、カギPは小さく息をついた。彼は一度も僕と目を合わせようとしなかった。

「あなた僕のことを見下しているでしょう」
「その“僕”っていうのは、どっちを言ってる?」
「ほら、否定してくれないじゃないですか。なんで……してくださいよ」
「カギPのこと?それとも……」
「ああもう、やめてください、それ以上言わないで……」

駄々をこねる子どものように首を振って、髪をがしがしと掻きむしって、そしてカギPは僕から逃げるように歩調を早めた。目元を乱暴に拭った彼は少しだけ泣いているように見えた。背後から、月が僕たちを追いかけてくる。「僕はあなたが怖い」「抱いてほしいって言い出したのは君だろうに」「それは間違いだった」「なんでそう言い切るのさ」「あなたにはわかりませんよ」月が追いかけてくる。「自分勝手だよ」「子どもですから」「自分は子どもだから、なんて言って開き直るずるい子は、もう子どもとは呼べないよ」月が追いかけてくる。「うるさい」「だからと言って大人でもないけどね。まあ何にしても中途半端なんだよ、カギPくんは」「うるさい!」月が僕たちを追いかけてくる。

「だから愛してるよ、鍵介」

振り向いた彼はなにかひどくおぞましいものを見るような色の目をしていた。嫌悪と恐怖にひとつまみの愛情をぱらぱらと振り入れれば、きっとこんな色になる。月の美しい夜だった。



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