透明人間イズム(主笙)
2017/12/26





きょうは晩飯外で食うか、という笙悟の提案に「いいよ」と返すまではいいのだが、そこからじゃあどこで食うのかを決めるまでがなかなか長い。しばし無言でスマホをいじり、たまにはちょっと遠くまで(と言ってもせいぜい徒歩で行ける最寄り駅の反対側、とかそんなもんだが)足を伸ばしてみるのは如何か、と周辺の地図を検索してみたりした俺たちが30分後に座っていたのは、結局のところ家からいちばん近くて安い飲食店、いつもの中華チェーン店のテーブル席だったりする。部活帰りの学生やら仕事終わりの会社員やらで最も混み合う時間帯を外したおかげで席にはすんなり座れた。
「気ままなフリーターの良さはごはんの時間の自由が利くとこだね」
「……ああ、まあな、そうだな、うん」
ちょっとフクザツそうな顔をされた。席を案内してくれたフロアバイトの女の子が、ご注文お決まりの頃にまたお伺いします、と戻っていく。いつ見ても「俺らのこと真夏の野球部か何かと勘違いしてるのか?」と疑いたくなる無闇なサイズのピッチャーからコップに水をなみなみ注いで渡すと、笙悟は「こんなに飲まねえよ」と苦笑した。
「何にする」
「うーん、どうしよっかな、どれでも」
「どれでもって……お前そういうのよくないぞ」
「だってほんとにどれでもいい……笙悟が選んで。そんでちょっとずつ交換して色々食べようよ」
「んー……」
笙悟は何か言いたげな表情のままメニューを捲っていた。笙悟は味噌ラーメン、俺には餃子とチャーハンのセットを頼んで、時々交換して食べた。当たり前だけど、いつだって同じ味だ。特別美味いわけでもないけど不味くもない、だからおいしい。みんな無意識のうちにそういう安心と不変をチェーン店に求めているのだと思う。

「……なあ、ほんとはどこか別に行きたい店あったのか」
「んーん、そんなことないけど」
「俺に気遣ってる?」
「いやいや」
「…………」
「言いたいこと我慢して自己主張しないんじゃなくて、主張したいことがそもそもあんまり無いの」
「あー」

すとんと腑に落ちたのだろう、ちょっとわかるかもな、と呟いて笙悟は麺を啜った。やっぱりバカほどでかいピッチャーの水は減らない。もし帰りに手をつなぎたいって俺からお願いしたら、君は喜んでくれるのかな。




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