小十郎くんと過ごす時間



「小十郎くーん。遅くなっちゃったけどご飯できたよ。食べる?」

「うん。食べる!」


ちゃんと画面から適度に離れてテレビを一人で大人しく見ていた小十郎くんに声をかけた。
時刻は8時半。
これから一緒にご飯を食べてお風呂に入って寝かせなきゃいけないのに…
テーブルに小十郎くんと私の二人分の食事を並べる。
ご飯を目の前にして相当お腹がすいていたのか、見つめたまま動こうとしない。
いつになくお子様全開な彼に思わず笑ってしまう。
すべての準備が終わったので小十郎くんの横に座って食べ始めることにした。
しっかりはしているが、お兄ちゃんと同じく少し抜けている部分があるのでお箸の持ち方や食べ方などはまだ上手ではない。
また小十郎くんの子供らしい一面を見て笑ってしまう。
隣で肩を震わせながら笑っている私に気が付いた小十郎くんは口の周りにハンバーグのソースやご飯粒などをつけながら不思議そうに私を上目遣いで見つめて首を傾げた。
ティッシュをとって口に周りを拭いてあげると少し照れくさそうに笑ってからまた食べ始めた。
なんか、16歳ながら息子をもった母親の気持ちになってきた…最近。
こうやって小十郎くんと一緒に過ごすのも回数を重ねるごとに慣れてきた。
お母さんは毎日仕事から帰ってきてこんなことしてるなんて大変なんだな。
そんな私のお母さんとお父さんは二人して海外出張中。
とても大変なお仕事らしくて、一緒に出張先に行こうって誘われたんだけどその時は中三で受験も控えていた年だったから環境を変えたくなくて、それに大好きなみんなと少しでも離れるのが嫌なのでこうして私一人で日本に残ることにした。
半年に何度か私を心配して戻ってきてくれる。
さびしくない訳じゃないけど、時々私を気遣って泊まりに来てくれたりするみんながそばにいる。


「麗華は、ひとりでさみしくないのか?」

「え?あ、うん。もう16歳だし、みんないるし!」

「じゅうろくさいになったらさみしくならないのか」


ご飯が終わって小十郎くんと一緒にお風呂に入って湯船に浸かっていると遠くを見ながらポツリ、と零した。
不意を突かれたような唐突な質問に驚いたけど私は笑顔でそう答えた。
…たぶん小十郎くんは相当寂しい思いをしているんだと思う。
「寂しい?」と尋ねれば彼はいつも強がって「さみしくなんかない」って答える。
でも私だって、いくらみんながいるとはいえ常にいてくれるわけではない。
家に帰ってきても明かりなんてついてないし、温かいご飯を出してくれるわけでもない。
16歳だしもう大人だから。そう言ってる私も強がってるだけなのかもしれない。
湯船から上がって小十郎くんの髪を洗いながらジュニアたちのことを楽しげに話す彼の話に笑ってうなずいていた。


「今日は何読もうか?」

「…麗華のはなしききたい」

「え?」


夕食も終わり、お風呂も入り、髪を乾かしてパジャマに着替えた私たちは布団が既に引いてある寝室へと向かった。
9時ともなれば四歳の小十郎くんにはもう深夜と変わらない。
私も一緒に寝てあげたいんだけどまだ課題が終わってないのでこれからやり遂げなければならない。
なので一旦小十郎くんを寝かしつけるために今日読む絵本を選ばせていたときのこと。
三、四冊の見慣れた絵本を小十郎くんの前に広げてどれがいいかなー?と問いかけたところ、思いがけない答えが返ってきたのだ。
既に布団に入って寝る体制が整っていて掛け布団から顔を覗かせながら言った一言は、確かに私の耳に入ってきた。
私の話が、聞きたいとー…?
小十郎くんの好きなアニメの話とか、レンジャーものの話とかできないし、何話せばいーんだろ?


「んー、私のどんな話が聞きたい?」

「がっこーであったこと!」


ニコニコと笑いながら私が話し出すのを楽しみに待っているらしい。
学校であったことといっても特に何も無かったんだけど…
けど、あ。
強いて言えば今日テツヤの授業中の面白い話があったな!
小十郎くんはテツヤのことなら知ってるし、話しても通じると思う。
「あのね、今日ね」話し始めようとした途端、思い出して少し笑ってしまった。
そんな私を不思議そうに見ながら続きを早く聞きたいと言わんばかりに目をキラキラと輝かせていた。
それから一通り今日あったことを話していると、笑いながらもウトウトしだしている小十郎くん。


「それでテツヤがね、先生に指されてー」

「う、ん…っ」

「ふふ。この続きは明日ね、もう寝よっか。おやすみ」


そう言うと素直に目を閉じて直ぐに寝息をたてはじめた。
ふ、と笑ってから寝ている小十郎くんの髪をそっと撫でた。
まじまじと見るとやっぱりお兄ちゃんの征十郎に似ている。
まだ四歳の小十郎くんだけど大きくなったら征十郎みたくイケメンになるのかなー…
あ、征十郎より大きくなっちゃってケンカし出したりしちゃって。
突然私の話を聞きたいと言い出したところはとても気になるけど、楽しそうに聞いてくれてたからいっか!
布団をちゃんと掛け直してあげてから寝室を出た。
一緒に住むことになったら、こんなこと毎日なのかな。
…大変そうだけど案外幸せかも?
明日はバスケ部朝練だから、教室ついたらテツヤに聞いてみよーっと。
それに小十郎くんを保育園に送ってから学校行かなきゃな。


「課題終わるかな」


その前に、割と多かった課題を目の前にして心が折れそうになる私。
早く寝たいのにー…
こういうとき、近くに征十郎とかいたら手伝ってくれるんだろうなあ

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