002.征十郎からの電話からの出来事



そうこうしているうちにいつの間にか七時をとうに回っていて。
すると次々にジュニアたちのお母さんやお兄ちゃんズがお迎えに来だした。


「ありがと、麗華。じゃあな!」

「麗華ちゃんありがとね。それじゃあまた明日!」

「麗華またあしたなのよ!バイバーイ」


最後には必ずお礼を言ってみんな帰って行く。
大好きなお母さんやお兄ちゃんたちと手を繋いで帰って行くジュニアたちは本当に嬉しそうだ。
私も元気に手を降ってみんなを送り出す。
最後に真子ちゃんと真太郎が家に帰ると、横にいる小さな小十郎くんと目が合った。
私を見上げた小十郎くんはどこか強がっているように平然を装っている。
小十郎くんが私のお家に泊まることはよくある。
赤司家ではよくあることで、息子である小十郎くんが大好きなことに変わりは無いのだが、大人の仕事の都合上、夜遅くまで残って仕事をやり遂げることがよくあるのだ。
その度に小十郎くんは「大丈夫」とワガママも言わずにじっと堪えて次の日保育園に行くまで待つ。


「あとで征十郎お兄ちゃんが電話くれるって。たくさんお話しようね?」

「おにいちゃんが?それはうれしいな」


四歳だとは本当に思えない。
これも全部お兄ちゃんである征十郎の影響なのであろうか。
いつも頑張っている小十郎くんの為に、今日の夜ご飯は小十郎くんの大好きなハンバーグにしよう。
だけど時計を見ると指定された8時まであと五分と言ったところで。
もうすぐくるだろうと思った私はみんなを送り出す為にいた玄関から踵を返して小十郎くんと一緒にリビングへ向かった。
リビングについたと同時に携帯が着信を告げた。
発信元を確認すると征十郎だった。


「ハイ。」

「麗華、大丈夫か今。」

「うん。大丈夫だよ。征十郎は今部活終わったところ?」

「ああそうだ。」


少し前に着替え終わったらしくて、更衣室を出て今から寮に向かうところらしい。
電話口で少し息が上がっているのが分かる。
「お疲れ様」と声をかけると嬉しそうに返事を返してくれた。
それからお互いの近状や世間話などで盛り上がっていると遠目にこちらを見て羨ましそうにしている小十郎くんが見えたので少し悪い気がしてすぐに本題に入りたいと話題を変更した。


「…で、大事な話って?」

「あ、そうなんだ。前から母さんたちと話していたことなんだけど…」

「…え?」

「…てことなんだけど、近いうちに越したいと思うから麗華も準備しといてね」


あまりに突然すぎる衝撃的な内容に驚きを隠せずえ、え?とただ口をパクパクとさせることしかできない私。
なんて間抜けなんだろう。
一通り征十郎との話は終わったらしかったので、頭真っ白になったまま未だに征十郎と繋がっている携帯を小十郎くんに渡した。
征十郎からだということを知っている小十郎くんは渡された携帯を嬉しそうに見つめると電話口を耳に当てて征十郎を呼んだ。


「おにいちゃん!こじゅうろうだよ!」


本当に嬉しそうにお兄ちゃんの名前を呼んで話を進めていく。
大きく頷いたり、嬉しそうに笑ったり、真剣に考えるような顔つきになったり。
多種多様の顔をしながら征十郎との会話を楽しんでいるそう。
だけど私は未だに征十郎から言われた話の内容についていけてない。
大事な話の内容は、ジュニアとお兄ちゃんズと一緒に住む。ということ。
初めは無理、と言ったのだが「麗華に拒否権はないよ。もう決まった話だから」それを言われて私は何も言えなくなってしまった。
それから私はただ征十郎の話に頷くだけ。
…それで、今に至るというわけだ。


「うん。おにいちゃんもがんばってね!…ハイ。」

「もういいの?」

「おにいちゃんつかれてるから」


せっかく大好きなお兄ちゃんと話す機会が出来たのに、多分今話していた時間はものの五分程度だろう。
そうやってお兄ちゃんを気遣うところ、偉いと思う半面見ている私からすれば痛い。
こういうときだけは、甘えたっていいのに。
ニコっと笑って私に携帯を差し出し、小十郎くんの手から携帯を取ると満足げに私から離れて行った。
このまま切るわけにもいかないので一旦また私に変わったことを伝えてから先ほどのことを少しだけ尋ねた。
大体いつくらいからなのかとか、私以外のみんなは知ってるのかとか、どこらへんに住む気なのかとか…
だけどどの返事をしても大まかではあるけど大抵のことは決まっていたようで淡々と答えてくれた。
本気なんですね、ハイ。


「分かった。じゃあまた何かあったら連絡するね」

「ああ、そうしよう。それじゃ」


ツーツー…と会話の切れた音がする。
それにしても、本当に知らなかったのは私だけなのかな?
他の五人の中にも知らない人いるんじゃない?
テツヤも大輝も涼太も真太郎も敦も誰一人教えてなんてくれなかった。
というか、それ以前に一緒に住むって何?
お母さんたちと前々から話してたってもう許可は頂いてます、的な?
大分重たい身体を椅子から持ち上げて今日の夜ご飯の準備をする。
もしみんなで本当に一緒に住むことになったら毎食私が作らなくちゃいけないよね?
ジュニアたちのお弁当も私が?
冷蔵庫から予め作っておいたハンバーグのタネを取り出す。
だけど、こうやって小十郎くんや健くんがひとりぼっちになることはないんだね。
近いうちにって言ってたけど、今週だと聞かされたときはさすがにど肝を抜かれました。
ちゃんと話したいし、征十郎近いうちに帰ってきてくれるかな…

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