兄の心配



「火神くんにテツヤは部活頑張ってね!」

「おう。」

「ハイ。テツナのことで何かあったらメールいれておいて下さい。」

「ん。分かった!」


帰りのSHRも終わり、あっという間に放課後になってしまっていた。
教室から部活に向かう生徒や帰宅の準備をする生徒がたくさん。
そのうちの火神くんとテツヤは鞄を持ち上げて私と会話を交わして教室を出て行く。
最後にテツナちゃんのことをとても心配そうにしていたテツヤは不安そうな顔をしていた。
そんなテツヤに私はニッコリ微笑んで、教室をでる支度を済ませる。
本当にテツヤはいいお兄ちゃんだと思う。
…みんな本当にいいお兄ちゃん。
これからジュニアたちがいる保育園にお迎えに行かなければならない。

ジュニアたちが預けられている保育園は私の通う誠凛高校から徒歩30分程度のところにある場所で、各々の家から20分程度にある。
今の時代、待機児童が後をたたないけどジュニアたち六人同時に入れたのは本当にキセキだと思う。

ー30分程歩いてみんなが待っているであろう保育園へと着いた。
いつものように門をくぐり、お迎えに来ていたであろうジュニアたちのお友達のお母さんと挨拶を交わす。
そのままひよこ組、と記された四歳児クラスの教室へと向かう。
その途中でひよこ組の担任の先生とばったり会ったのでお迎えにきたことを伝える。
すると先生は私ににこやかに笑って中にいるであろうジュニアたちに声をかけて帰りの支度をするように促す。
次々にジュニアたちが動き始めるのを見て先生は私に連絡帳を渡してくれた。
そのときにテツナちゃんのことを思い出した。


「あの、今日テツナちゃんていつも通りでしたか?」

「テツナちゃんですか。…ええ。特に変わりありませんでしたよ」

「そうですか。」


どうやら朝のぐずりは大したことなかったようである。
先生から渡された連絡帳を鞄にいれて帰りの支度が済んだジュニアたちが来るのを待つ。
すると、今日も一番にやってきたのは涼太の弟、勇太くんである。
可愛らしく頭には黄色い帽子を被って黄色い鞄を斜めにかけて私めがけて走ってきて飛びついてきた。
この瞬間が何よりも可愛くて…っ!!
とびついてきた勇太くんの相手をしているとその後ろから大輝の弟、光輝くんと敦の弟の健くんと征十郎の弟の小十郎くんが歩いてきた。
三人も勇太くんと同じかっこをしており、とんでもなく可愛い!
更にその後ろでニコニコしながら歩いてきたのは真太郎の妹の真子ちゃんとテツヤの妹のテツナちゃん。
ジュニアたち六人が集まったところで先生に挨拶をしてから保育園をあとにする。
みんなで手を繋いで仲良く私の家を目指して歩く。
四歳児に20分間も歩くのは辛いんじゃないのかとも思うけど、いつも元気そうに楽しく大人しく歩いてくれる。


「ねえねえ麗華っち!きょうオレさかあがりできたっス!」

「本当?凄いね!」

「でもなかなかできなくてとちゅうでなきそうになってたけどな」

「小十郎っち!そんなことないっス!」


とっても逆上がりができたことが嬉しかったのか、今日の勇太くんはいつになくご機嫌である。
そんな勇太くんの隣にいた小十郎くんはどことなく征十郎に似て冷静に事を告げた。
小十郎くんにそう言われて少しだけ拗ねたように見せたけどまたすぐに繋いでいた手をブンブンと振ってニコニコ笑いながら歩く。
前にいる健くんと光輝くんも何やら楽しげに笑いながら話していて、真子ちゃんとテツヤちゃんの女子トークもどうやら盛り上がっているらしい。
何よりも今日もみんな元気そうでよかった。
家に帰ったらテツヤにメールいれておかなきゃ。
あれだけ心配してたんだし。


「ねえ麗華。」

「んー?」

「おにいちゃんはこんどいつかえってくるんだろう。たけるもさみしそうだった」


前をしっかりと見つめながら話す小十郎くんはとても大人に見えたけどすごく悲しそうな顔をしていた。
いくらしっかりしているとは言え、近くに大好きなお兄ちゃんがいないというのはとても寂しいこと。
ましてやまだ四歳だし、すべてを受け止めきれないのだろう。
小十郎くんと健くん以外のジュニアをお迎えに来るお兄ちゃんたちをとても羨ましそうに悲しそうに見つめる姿を見ることも多々ある。


「きっとすぐに帰ってくるよ。じゃあ今日も征十郎にお電話しようか!」

「…する!!」

「お兄ちゃんも小十郎くんに逢えなくて寂しいと思うよ?だけど、お兄ちゃん大好きなバスケ頑張ってるから。」


小十郎くんも健くんにも寂しい思いをさせちゃいけない。
だから週に何度か征十郎や敦に電話をかける。
そのときの二人の表情は何よりも嬉しそうで、柔らかく笑っている。
わがままを言わずにただお兄ちゃんたちが帰って来るのをじっと我慢して待っている二人は本当にお利口さんだと思う。
そんな風にいつも通りみんなで家路を辿っていればもう私の家は目の前で。
鍵をあけて扉を開いてジュニアたちを中に入れる。
そして第一声。


「手洗いうがいをしてくださーい!」

「「「「「「はーい!」」」」」」


とても元気に手を挙げながらお返事をするジュニアたちは本当に可愛い。
バタバタと足音を立てながら洗面所に向かうみんなの後ろ姿を見て一人微笑む。
だけどここでもう個性が出る。
玄関に脱ぎ捨てたかのように置かれた靴をちゃんと並べてから洗面所に向かおうとするのは小十郎くん。


「しかたがないな」


と言いながら主に勇太くんと光輝くんの靴を渋々綺麗に揃える。
さすが。
あのキセキの世代の元主将(キャプテン)の弟。
…四歳児とは思えない普段の言動ぶりに驚かされるばかりだよ。


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