008.ちゅー、しましょ?



「あれ、大輝にさつきおかえり〜」

「ただいま!」

「ただいま」

「夕飯誰に用意してもらったの?」

「俺がやっといたっスよ!」

「ありがと涼太」


テツナちゃんと光輝くんと真子ちゃんと私の四人でお風呂に入っていたから大輝とさつきが帰ってきたことに気が付かなかった。だから作っておいた夕飯は涼太が温めたりお皿に装ったりして出してくれたらしい。どういたしまして、とモデルスマイルを向ける。


「それと、他のジュニアのドライヤーも終わったのだよ」

「ありがとう!じゃああとは三人だけだねっ」


ソファに座ってテレビを見ていた真太郎も私に顔を向ける。私がジュニアたちをお風呂に入れている間にお願いしていたドライヤーも全員終わっていた。


「ぶー、するの?」

「ぶーするよ、テツナちゃんおいでー」


はーい、と可愛らしい返事をしてドライヤーを構える私の前にちょこんと座る。まだ髪の毛が濡れたままの真子ちゃんはお兄ちゃんにタオルでゴシゴシと拭かれている。同じようにまだ濡れている光輝くんは涼太にタオルで拭いてもらっている。


「テツナちゃん髪の毛伸びたねー」

「そおですか?」

「うん!どこまで伸ばそうかー…」

「うーん、?」


ドライヤーを使ってテツナちゃんの水色に染まった綺麗な髪の毛を触っていると大分伸びたことに気づく。今まで何も思わなかったが前に髪を切ったのが三ヶ月も前だと思うと確かに伸びた。


「じゃあラストは光輝くんねー、」

「まだおれだめ?」

「あとちょっとー」


テツナちゃんも真子ちゃんも終わり、それなりに時間は経ったものの、光輝くんの髪の毛は完全に乾いてはいない。しなくても良いとは思うけど秋に変わりかけてる今、ドライヤーを怠ると風邪を引きそうで怖いから完全に乾かすまでやることにしている。

だけどあまりドライヤーが好きでは無い光輝くんは自分の頭を触ってこれでもだめ?と訴えてくる。そんな彼に私はあと本当に少しだけだから、と頭を撫でてドライヤーをはじめる。


「熱くないー?」

「だいじょおぶー」


兄の大輝と同じように染まった青色の髪の毛を梳かしながら乾かす。嫌い嫌いとは言いつつも、いつも気持ち良さそうに目を閉じてウトウトする。目の前の鏡に映る光輝くんはまたいつものようにウトウトしている。

可愛いなあ、ホントに。


「よし、光輝くん終わり!」

「もう?」

ものの1.2分程度で終わってしまったことに驚いているのか目をまんまるにしている。


「うん。だから言ったでしょ?直ぐだよって」


その言葉に納得したように頷くと、他のジュニアのところへ走って行った。目の前の鏡に映る自分を見るとまだ全然乾いていない髪の毛にうんざりしながらもドライヤーの電源をオンにする。

これ終わったら明日の朝ごはんの用意しようかなー、と考えていると後ろから涼太の声がしたのでドライヤーを止めて振り返る。


「ごめん、何か言った?」

「腕疲れちゃったでしょ?俺麗華っちのやってあげるっスよ」

「そんな、悪いよ。涼太も疲れてるでしょ?」

「もう。たまには甘えて欲しいっス、ほら貸して。俺がやるから麗華っちはやられといて」

「わ、あ、うん…よろしくね」


右手に持っていたドライヤーはするりと自分の手を抜け涼太の手に持たれる。なんだか私も疲れてきたので、取り敢えずされるがままにお任せすることにした。
ドライヤーの電源がオンになると私の髪の毛が風と涼太の手ぐしによって揺れる。涼太の手は大きくてなんだか気持ちがいい。光輝がウトウトしてしまう気持ちも分かる。


「麗華っちも髪長いっスよね、」

「一年くらい切ってないからねー…涼太は短い方が好き?」

「俺は可愛いアレンジがたくさん出来るから長い方が好きっスね」

「巻いたりとかあげたりとか、ってこと?」


そうっス、と鏡ごしにまたモデルスマイルを私に向ける。営業スマイルじゃないかと思うけどこれが涼太の本当の笑顔。だからそんな自然な笑顔にモデルスマイルなんて名付けちゃ失礼だとは思うけどモデルの時もこんな笑顔をするんだから仕方がない。


「麗華っち染めたりしないんスか?」

「今のことその予定はないかな」

「でも毛先とか茶色っぽいっスよ?」

「痛んできちゃったのかなー…枝毛も凄いし美容院行ってこようかな」


男の子なのに、美容のこととかよく知ってる。涼太と美容とかファッションとかの話になると凄くタメになって、さすがモデルとして芸能界に出てるだけはあるな、って思う。それなのにバスケでも有名となるとちょっと嫉妬してしまう。

ドライヤーの電源が切られ、涼太の手が私の髪の毛から離れる。どうやら乾いたみたいだ。


「麗華っち、終わったっス!サラサラっスよ」

「ありがとう、気持ちよかった!」

「そう言ってもらえると嬉しいっス、麗華っちの頼みごとならいつでも聞くっスよ!」


本当に涼太は私の頼んだこと一度も断ったことがない。いつだって笑顔でなんだっていいよ。ってやってくれる。
ルックスも性格もよくて運動できるのに、どうして彼女とか作らないんだろう?


「ねー、麗華ちん!」

「んー?どしたの健くん、」


朝ごはんの支度をしようとキッチンに向かう途中、足にくっついて私の名前を呼んだ健くんはなんだか恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。熱でもあるのかと思ったけどそうではないようだ。
健くんと同じ目線までしゃがんで頭を撫でてあげると健くんの真っ赤な可愛い顔が突然近付いてきたかと思えば、頬に唇が触れた。


「…あのね、すきなひとにはちゅーするの」

「ちゅー?」

「うん。おれ麗華ちんすき、だから…」


多分また保育園かどこかで誰かに"好きな人にはキスをするものだ"とかなんとか聞いたのだろう。
モジモジと顔を先ほどより真っ赤に染めてそう言った健くんは本当に可愛くて、私も健くんに抱きしめてキスをした。


「私も健くん大好きだよ!だからホラ、これで同んなじ!」

「っ!麗華ちんっ」

「あ、ずるい!おれもー」

「まこも!」

「ぼ、ぼくも!」


そんな私たちを見ていた他のジュニアたちもやってきて、いつの間にかちゅーばかりしていた。深い意味なんて知らないだろうからしてあげれば喜ぶ。もっともっとってしてくる彼らはとても純粋そのもので、可愛くて仕方が無い。


「何をしているのだよ…!」

「本当に何してるんですか」

「何してんスか!みんなして!」

「まじで何してんだよ」


リビングのど真ん中でちゅっちゅしていれば驚くのも無理ないだろう。真太郎にテツヤに涼太と大輝が驚愕の表情を私たちに向けている。

すると私に抱きついたままの勇太くんが言った。


「だいすきな麗華っちにちゅーしてるっす!」


それを聞いた真太郎は突然酷く取り乱したように真子ちゃんを抱き上げて私から離した。同じくテツヤは健くんとテツナちゃんを離し、大輝は光輝くんと小十郎くんを抱き上げた。涼太はというと


「勇太がしたなら俺もするっス!」


と私に腕を伸ばして抱きつき、キスをする寸前で大輝に蹴飛ばされた。



「どうしてこうなったのだよ」


あの騒ぎから数十分経った今。あれからジュニアたちを直ぐに寝かせ、朝ごはんの支度を終えた私の前に真太郎、大輝、テツヤ、涼太と並んでいる。悪いことをしたつもりはないけど、真太郎は腕を組んで眉間にシワを寄せている。どうやら怒っているらしい。

私は取り敢えず何か誤解をされているとマズイので、なぜああなったのかという経緯を丁寧に説明した。


「…ね?ジュニアたちも私も何も悪くないでしょ?遊んでただけだよ、うん」

「キスが遊び、ですか」


今まで何も言わなかったテツヤが突然口を挟んだ。でもテツヤの言ったことが正論すぎて、何も言えずにいた。


「まさか、普通の男にもやってないよね?遊びとか言って」

「まさか!それはないから大丈夫だよ、ジュニアたちだけだって…」

「まー良いんじゃねえの?麗華だって子供じゃねーし。」


大輝もそこまで言う必要ない、と言う。真太郎もそれなら、と許してくれたようで私は解放された。

誤解が解けたようで安心したのか眠くなってきたのか無意識にあくびが出た。この後やることもないので私はテツヤと涼太と一緒に寝室に向かった。


「それにしても健くんは一体誰に教わったんですかね」

「テレビとかかな?保育園かな…」

「今の時期ってなんでも直ぐに吸収するから怖いっスよね、」


ジュニアたちが寝ている横で私たち三人並んで布団に入る。

でも涼太の言うことは同感で、こないだ真子ちゃんは勝手にコンロの火をつけようとしていたし、小十郎くんはお兄ちゃんの真似だとか言ってハサミで遊んでいたし、勇太くんもどこからとってきたのか千円札を片手に外に出ようとしていた。目を離すとその隙に何をしでかすか分からないので確かに怖い。


「でもさ、麗華っち?」

「ん?」


涼太に名前を呼ばれて右を向くといつの間にか距離が近くなっていた。


「他の男にキスなんてしたら俺、次は怒るっスよ」

「…!?」


そう言って涼太は私にキスをした。ジュニアたちとした頬になんかじゃない、可愛いキスなんかじゃない。唇と唇が触れるような簡単だけど、ちょっぴり大人なキスを。


「黄瀬くん何してるんですか。…麗華さん、こっち向いてください」

「ん…?」

「僕だって怒りますよ。分かりましたか?」

「!!」


テツヤにも呼ばれて今度は左を向くといつもとはちょっと違った表情のまま、また私にキスをした。ジュニアにも、涼太にも負けじと。

何が何だか分からない状況のまま頭が混乱して、涙が出そうになった。いくら幼馴染でもここまでのはした事がない私は二人が何を思ってるのかさっぱり分からず1人悩み、眠りにつくまで時間がかかった。


「(麗華っちはジュニアたち程何も知らないから)」

「(麗華さんは僕らが守らないと)」




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