返して!



「麗華っち、みんなは寝たスか?」

「うん。みんなぐっすりだよ」

「ん、ありがと」


あれから無事に家に帰った私たちは、ご飯やらお風呂やらを済ませてゴロゴロ好きなようにしていた。そして私はいつものように九時を過ぎる前にジュニアたちを寝かしつけて、今一度みんながいるリビングに降りてきた。いつもジュニアたちを寝かしつけて私たちは同じ時間を共有する。一緒にテレビを観る時もあるし、ゲームをするときもあるし、ただ話で盛り上がるときもあり、やることは様々である。
みんながソファに腰を下ろしているのを見、私は床にクッションを抱く形で座った。


「あ、そういえば涼太。あの雑誌買ったよ!」

「え、買ったんスか?わざわざ?」

「そういやこないだ一緒に本屋行ったとき黄瀬がどーのこーのって行って即買いしてたな、麗華。」

「そそそそっ、即買い!?見るだけでいいって言ったのに…」


確かにあの時涼太は見るだけでいい。って言ったけど大好きな涼太が載っている雑誌を見るだけで済ませる訳にはいかない。持っていたいのだ。だから嬉しくて即買いしてしまった…
だけどその事をそのまま涼太に伝えると、それが恥ずかしいことだったのか、涼太は顔を赤くして黙ってしまった。というか最近、涼太顔赤くすること多くない?


「黄瀬くんて麗華さんに対しては情けないですよね」

「あ、それ俺も思った。そこら辺にいる女たちにはホイホイ星まいてんのによー」

「麗華に褒められるとすぐに赤面するしな」

「そういう緑間っちだってすぐ顔赤くなるじゃないスか!」

「何だと!?」


隣同士にいた涼太と真太郎が今にも掴み合いの喧嘩をしそうになる。テツヤに大輝はまたはじまった。と言うような呆れ顔をしただけで止めに入ろうとしなかったので私が止めに入った。


「もー、ジュニアたち起きちゃうから!ホラホラみんなアイスでも食べる?昨日買ってきたやつあるけど」

「お、食う食う!」

「真太郎の大好きなお汁粉味のアイスもあるんだよ!」

「…ならば致し方ない。貰うのだよ」


冷凍庫から人数分のアイスを持ってまたソファに戻る。みんなに配り自分もアイスに口をつける。


「んーっ!美味ひ!」


この何とも言えない時間が1番スキ。アイスを食べながらみんなで今日の練習内容などを話し合う。その間も誰も喧嘩することなく楽しく時間が過ぎる。


「麗華のもうまそう。くれよ」

「えー?だって大輝全部食べちゃうじゃん」

「食わねえよ、ホラよこせ」

「んー、ちょっとだけだからね!」

「おう。…ん」

「あーーーーーー!!」


ちょっとだけ、そう言って大輝が本当に私が思うちょっとだけしか食べないと思った自分が甘過ぎた。まだ半分ほどあった棒アイスを大輝は悪気もなく一口でそれをすべて口に含んだ。それを目の前でされた私は思わず大声を出してしまった。ジュニアたちが二階で寝ていることも忘れて。


「ちょっとちょっと青峰っち、さすがに麗華っちが可哀想っス」


そう言って対面にいる大輝に対して呆れたように言う涼太


「…仕方ないですね、麗華さん、僕の食べますか?」


青峰くんを軽く睨みながら私に自分の食べかけの棒アイスを差し出すテツヤ


「麗華泣くな。明日青峰に同じものを買いに行かせよう」


泣きそうになる私の頭を撫でて慰めようとしてくれる真太郎


「大輝のバカ!本当にバカ!!テツヤに涼太に真太郎ありがとう。…大輝買ってきてね」


私が楽しみにしていたアイスの半分を一瞬にして奪った。本当強引で横暴…さっきはあんなに優しかったのに!
未だソファに図々しいくらい反省していない様子で悪びれも無く座る大輝。ここまで清々しいくらいに人のもの取り上げる大輝にはもう慣れたつもりでいたけど…


「あー?アイスなんて自分で買えよ」

「ちょっ…!?人のもの食べといてよくそんなこと言えるわね!」

「青峰くん最低です」

「ゲス峰…」

「もう知らないのだよ。」


まあ結局いつも私が折れるハメになるんだけど。だけどさすがに食べ切ったアイスの棒を私に差し出していらねえ。と言ったときは正直ムカついた。これがテツヤみたく当たり棒とかだったら許せるのかもしれないけどさ!もう…


「もう10時だね、じゃあ私朝ごはんの支度して寝るね」

「あ、手伝います」

「ありがとう」


朝練があるお兄ちゃん組の為にもできるだけ朝ごはんも私が用意するようにしている。料理のできる真太郎に征十郎に涼太がいるときは時々任せたりもしている。明日の朝ごはんの為に炊くご飯を用意する為に六号のお米をとぐ。これがまあ朝だけでなくなるんだから大したものだと感心する。


「テツヤお米といでもらってもいーかな?」

「わかりました。」


私は冷蔵庫からサラダの材料を取り出してお皿に盛り付ける。こんなこと朝やればいいのかもしれないが、早起きが苦手な私は前日に済ませられることはできるだけ夜にやっておくようにしている。そうすれば朝は比較的楽なのだ。
テツヤがシンクで六号のお米をといでいる中、私はせっせとお皿をキッチンに並べる。それと同時進行にお味噌汁を作る。


「あ、ねえテツヤ」

「はい?」

「明日のお味噌汁、具は何がいい?」

「そうですね…僕はお豆腐がいいです」

「はーい」


テツヤのチョイスで明日のお味噌汁はお豆腐になった。鍋に味噌を溶かしたベースに一口サイズのお豆腐を入れる。ネギも私のお好みで足しておいた。隣ではお米をとぎおわったテツヤが炊飯器にセットし終わったようでこちらを見ていた。味見は一応したが、テツヤにもしてもらうことにした。


「どう?」

「美味しいです。明日の朝が楽しみです」

「良かった!お手伝いありがとう。じゃあ…私はもう寝るね、みんなもお休みなさーい!」

「あ、俺も寝るっス!」

「おやすみー」

「おやすみなさい」

「おやすみ」


手伝ってくれたテツヤにお礼を言ってからソファに座って話している大輝と真太郎と涼太に寝ることを伝え、あいさつをすると涼太も今から寝るらしくこちらに向かってきた。二人でリビングを後にしてもう既にジュニアたちが眠っているであろう寝室へ入る。中は贅沢なことにエアコンを効かせていて気持ちよく寝られる。
私と涼太もすぐに定位置につき、タオルケットを被る。でも涼太と私は隣同士だったんだ…


「涼太おやすみー」

「おやすみっス、」


すると私はすぐに寝てしまい、そのあと涼太がいつ寝たとかみんながいつ寝室に入ってきたとか全く分からなかった。



「…この寝顔も、俺だけのものじゃないんスよね……」






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