はじめてのれんしゅう
「うわあ…!!!」
「お兄ちゃん、今凄かったね!」
「うん!!おにいすごいっ!!!かっこいー!」
初めはまだ見慣れないバスケの練習風景に戸惑いを隠せていない様子の勇太くんだったけれど、少し経てばお兄ちゃんの涼太が一生懸命になってバスケをする姿を見てとても目を輝かせてさっきまでの戸惑いも何処かへ消えたように、すごい、かっこいいを連発してははしゃいでいる。だけど練習の邪魔になっては迷惑をかけるだけなのでなんとか静かに見せようと声をかけたが通りすがりの練習していた選手の一人に「お兄ちゃんだけじゃなくて、俺たちを見てかっこいいって言ってくれよ」そう声をかけられてから他の選手のプレーを見ては興奮したように声を上げた。
「麗華っちみた!?いまのすごいの!」
「見たよ!凄かったねー!!」
海常高校の選手の一人一人を詳しくは知らないので今のスキルの高いハンドリングを見せた彼の名前は分からないけど、勇太くんと私は今のプレーに圧巻されて二人で凄い凄い、かっこいいと騒いでいるとそんな私たちの視線やら声やらに気付いた彼がこちらに向かって来た。さすがにうるさかったかと思って申し訳なさそうに肩と眉をおとしているととても爽やかな笑顔を向けて話しかけてくれた。
「今の俺、そんなにかっこよかった?」
「うん!おにーさんもすごい!!かっこいー!ね、麗華っち!」
「はい!スキルの高いハンドリングを見て感動しました!とってもかっこよかったです!」
「か、かっこいい…?俺が…!?」
素直な気持ちを話すと彼は突然項垂れたように頭を下げて震え出した。何か気に障るようなことを言ってしまったなら謝らなければいけないと思い椅子から腰をあげてすみません、と声をかけようとした途端にその彼はまた突然顔をあげてとても嬉しそうに目をキラキラさせながら私を見つめ、両手を握られた。一体何事かと驚き少し後ずさる。だけどそんな私に怯むことなく突拍子もないことを口にした。
「俺と付き合って!!」
「…えっ!?」
するとこんな私たちのやりとりに気が付いた涼太と笠松さんがこちらを見てすっ飛んできた。
「森山センパイ!何してんスか!!」
「森山っ!練習中だよ、バカ!」
涼太によって私の両手と繋がっていた彼の手は引き剥がされ、笠松さんの飛び蹴りをくらい横に倒れ込んだ。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「麗華っち、心配しなくて大丈夫っスよ。」
「コイツのこの癖は今にはじまったことじゃねーから気にすんな」
「俺の運命の人…!」
倒れたままズルズルと引きずられて私たちの所から離れて行った彼は、一体何だったのか…"森山センパイ"と呼ばれていた彼はこういうことするのが"癖"なのかな?隣にいる勇太くんも呆気にとられたように口をぽかーんと開けて何が起こったか分かっていない様子。椅子に座り直して勇太くんの頭を撫でた。
「ビックリしたね?でもほら、またお兄ちゃん頑張ってるよ」
「びっくりしたー!おにいすげー!」
それからお昼になって私が作ってきたお弁当を美味しいと言って食べてくれる涼太や選手と一緒にお昼を過ごした。相変わらず森山さんには色々と言われたけどその度に笠松さんや涼太が助けてくれたりした。他にも早川さんや小堀さんとお話したりした。短いお昼休憩なのにも関わらず勇太くんと一緒に遊んでくれたりもした。
「勇太くんバスケ上手くなるよー!」
「大きくなったら黄瀬よりすっげー選手になるんじゃねーの!」
「えへへー!おにーよりおれうまくなるってー!!」
「そっスねー、じゃあ俺も抜かされないように頑張らないといけないっスねえ」
今の勇太くんより遥かに大きなバスケットボールに触れているのを見るともしかしたら本当に涼太より凄い選手になるんじゃないのかと想像してしまう。
「あ、麗華っちも今俺よりうまくなるって思ったでしょ」
「…思った」
「麗華っちもおれのみかた!」
「味方とかじゃねーっス!」
「私勇太くんの味方ー!」
「麗華っちまで!!」
勇太くんを膝に乗せて抱っこしている涼太と私と涼太の膝の上にいる勇太くんといつもみたく楽しく話していると、周りからの視線が気になってしまったのでここがプライベートではなく海常高校の体育館で練習中だということに改めて気が付いてまた申し訳なくなって肩をおとしているとそれに気付いた涼太も恐る恐るこちらをガン見していり笠松さんに声をかけた。
「ど、どうかしましたっスか…?」
「…や、なんかお前ら仲いい家族みてーだなって」
「家族!?俺らがスか!?」
「いいね、旦那さんの応援にくる妻と子どもみたいな?」
「…麗華っちのそんな素直過ぎるピュアさがたまに怖いっス」
「ダメだ!俺の未来のお嫁さんを黄瀬にやるわけにはいかない!」
「森山センパイまだ言って(う)んすか!」
「森山いい加減諦めろ」
言い出したはずの笠松さんはこのあと収拾がつかなくなって困りだし、早川さんと小堀さんは森山さんの暴走を止めるべく慌てて、そして何故か涼太は勇太くんを強く抱きしめたまま顔を隠している。
でも耳まで真っ赤なのはどうしてかな…?
「涼太、耳赤いよ?暑いの?もしかして、熱中症!?」
心配するように涼太に近寄ると、笠松さんも気になったようで涼太に近づいてきた。こんな暑い日に体育館でひたすら練習なんてしたらそりゃ熱中症にもなると思う…でも涼太が熱中症なんてなかなかないからもっと心配になる。だけど声をかけても反応はないし、顔をあげることもしてくれない。抱きしめられてる勇太くんは「あついっす、おにい」と涼太の腕から出たそうにしているがそれがなかなか叶わない。
「おい黄瀬…ん?」
見兼ねた笠松さんが涼太に声をかけると涼太はようやく私と対面にいる笠松さんの方にだけ顔を向けた。そして何やら話しているみたいだった。
「…ふはっ。黄瀬でもンなことあんだな!麗華ちゃん、コイツは大丈夫みたい。ただちょっと…らしくもなくパニクってるだけみてーだし?」
そう言って笠松さんは笑うと、涼太はうー、と唸り出した。でも何ともないようで安心した。
「良かった…」
「うし、じゃあそろそろ練習はじめっぞー。…その前に黄瀬、お前はそのみっともねー顔を洗うか冷やすかでどうにかしてこい!」
「はいっス〜」
「うーわ、黄瀬顔真っ赤!!」
「え、何々どうしたのw」
「言わないでほしいっス〜…」
笠松さんのかけごえを筆頭に立ちあがる選手たち。涼太も勇太くんを離して立ち上がる。その時の顔は、珍しく本当に真っ赤だった。一体何故そこまで赤くなったんだろ…
「勇太くん、二時になったら帰ろうね」
「にじ…?て、もうすぐ?」
「そうだね。あとちょっとかな」
体育館にある今1時30分を指す大きな時計を見つめるものの、まだ時計の読み方が分からない勇太くんはあとどのくらいいられるのか分からないらしく困っている。あとちょっと、と告げるととても分かりやすくショックを受けたようにシュンとした。もっとここにいさせてあげたいんだけど、ずっとテツヤや火神くんにジュニアたちを任せるわけにはいかないし、今日は早く帰って来るらしい桐皇組の為にもご飯の用意を早くしなければならないし…
ごめんね、勇太くんにそう謝ると
「おうちいればまたおにいあえる!」
そう言って笑って許してくれた。
「黄瀬速攻!」
「任せろっス!」
「おにいいけー!」
「涼太頑張れー!」
それからギリギリになって五対五のミニゲームが始まって、勇太くんの涼太を応援する熱は一気に上昇した。速攻で走る涼太、華麗なドリブルさばきで一人二人と抜いて行く涼太、綺麗なフォームから放たれスリーを決める涼太…何度か試合を見に行ったけど、中学時代より遥かに成長している涼太はかっこいい、素直に心からそう思った。
「それじゃあ、お邪魔しました。このあとも練習頑張ってください」
「こちらこそ差し入れとかありがとうございました。勇太くんも、また来てな」
「はいっす!またくるー!」
体育館を後にして海常高校の校門を出る。駅へ続く来た一本道を下る。その間私と勇太くんの2人は今日見たことをお互い笑顔で話し合った。
「ただいまー!腹減ったっス!!」
午後8時半。練習終わりの涼太が疲れた様子で帰宅した。たまたま玄関先まで用事があった私は帰宅したての涼太とバッタリ会った。
「あ、涼太おかえり。みんな待ってるよ、着替えたらご飯食べようね」
「麗華っちただいま!今日はわざわざ海常までありがと。助かったっス、差し入れもみんな喜んでたっスよ」
「こちらこそ、勇太くんも喜んだみたいだし私も楽しかったよ。」
「またいつでも来ればいいっスよ」
「うん、行く。笠松さんかっこよかったしな…」
「…え?笠松センパイ?」
「今度一緒に写真撮ってもらおうかなー」
「や。それなら二度とうちにこさせないっス!笠松センパイ目当てなら嫌っス!ダメっス!!」
「えー、なんでー?笠松さんともっと話してみたいし…」
「ダメ!!!!」
やけに笠松さんと仲良くなりたいという私を否定する涼太。
…これが彼なりのヤキモチだったなんて知らなくて。
(さっき赤面した俺が恥ずかしいっス…!ド直球でしかも真面目に妻とか旦那とか言わないでほしいっス…!!!というか笠松センパイにフラグ立とうとしてるのは何故!?)
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恋愛ものに徐々に発展してますね、これ。←
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