006.海常高校に来ました



「よしっ、勇太くん準備できた?」

「できたー!」

「帽子も持ったね、水筒は?」

「ちゃんとある!」


もうすっかり雨の日続きだった梅雨も明け、始まりました夏本番…陽射しも強くなってきたので外に出かける時は水分補給と帽子の所持をジュニアたちには口うるさく申しております。その甲斐あってか今のところ夏バテや熱中症で倒れた子はいないし、言わなくても水筒や帽子を自ら準備するようにまでなってきた。これからもっと暑くなるので油断は大敵ですが。

帽子は既にちゃっかりかぶっている勇太くんの鞄の中にもちゃんと水筒が入っていた。私もお弁当と差し入れを持って家を出発することにした。


「おにいがんばってる?」

「うん!涼太すっごくかっこいいんだよー!!」

「おにいかっこいい…!」


そういえば、今まで公式試合は見に行ったことあったけど練習風景を見たことはなかったんだっけ。
私が涼太の練習してる姿をかっこいい、と絶賛すると勇太くんはそんなお兄ちゃんに今から会えると思うと楽しみで仕方がないのか繋いでいる手をブンブンと振り回している。

これから私たちが向かうのは、海常高校。涼太がお弁当を持ってくるの忘れたという連絡が入ったのでお昼までには間に合うように準備をして勇太くんと一緒に家を出、今に至る。因みに他のジュニアたちは今日はたまたま休みなテツヤと火神くんにお願いしてきた。


「おにいのがっこ、とーいー?」

「ちょっと遠いかなー、神奈川まで行かなくちゃだからね。でもきっとすぐだよ」

「はやくおにいにあいたい!」


冷房の効いた電車に乗って、海常高校のある最寄り駅まで乗り換えなしの一本。日曜日の昼時とあってかいつもより空いていて座ることができた。さっきからかっこいいお兄ちゃんに早く会いたい、会いたいと言う勇太くん。本当にこの兄弟は仲が良い。


「あら、可愛いヒヨコちゃんね。お姉ちゃんとお出掛けかしら?」


暫くして最寄り駅まであと三駅…となった頃、とても優しそうなお婆さんが勇太くんに話しかけた。確かに今日の勇太くんの格好は帽子がヒヨコの顔となっていて、Tシャツの背中に小さく羽根が付いていてまさしくヒヨコといったコーディネートでここに来るまでに周りの人たちから可愛い可愛いと言われていた。

突然話しかけられて驚いた勇太くんだったけど、お婆さんの優しそうな笑みに安心したのか「おにいにあうの!」と嬉しそうに答えた。


「そうかいそうかい。ヒヨコちゃんはお兄ちゃんが大好きなんだねえ」

「うん!麗華っちがね、おにいかっこいいってゆーの!」

「かっこいいお兄ちゃんか…ヒヨコちゃんは幸せだねえ」

「しわあせ?」


お婆さんの言ったことが理解できないでいる勇太くんだけどお婆さんがとても優しい顔で笑うので勇太くんも何故か嬉しそうに笑っている。


「…あ、勇太くん降りるよ」

「おにいにあえる!」

「じゃあばいばいだね、お兄ちゃんによろしくね」

「うん!おばーちゃんまたね!」

「ありがとうございました。」

「お姉ちゃんもまたね」


最寄りの駅に着いたのでお婆さんとはバイバイして電車から降りる。改札を抜けて海常高校までの一本道を歩いていると涼太と同じ制服を着た男子学生を見つけては「おにい!おにいがいっぱい!」とこれまたとびきり嬉しそうに跳ねた。そんな勇太くんを見て周りの海常生は「ヒヨコだ」とか「可愛い」とか口々に話していた。校門まで着くと、さすがにここからは体育館の場所が分からないので近くにいた女の子に話を聞くことにした。すると快く了承してくれて体育館まで無事に辿り着くことができた。


「ありがとうございました。」

「ありがとー!おねーちゃん!」

「どういたしまして。…て、もしかして黄瀬くんの弟くん?」

「うん!きせゆーた!」

「可愛いー!!!超可愛い!黄瀬くんの弟くんに会えるとか奇跡!ヒヨコさん可愛いー!」


あの黄瀬涼太の弟だと知った瞬間に彼女の目は輝きだし、勇太くんを可愛い可愛いと騒ぎ出した。一方勇太くんも嫌がる様子もなく嬉しそうに笑っている。するとそんな彼女に気が付いた周りにいた学生さん達が瞬く間に勇太くんを囲んで騒ぎが大きくなった。


「黄瀬くんの弟!」

「ヒヨコさんとか超可愛いー!」

「うわ、髪の毛弟も金かよ!」

「将来約束されてんなーw」


あれだけ会いたがっていたお兄ちゃんがいる体育館はもうすぐ目の前なのにこれだけの人数に囲まれてしまっては動くことができない。それに私は完全に蚊帳の外であっという間に勇太くんの姿さえ見えなくなってしまった。
するとこの騒ぎに気が付いたのか体育館の中からバスケットボールを持った練習着姿の涼太が出てきた。


「涼太!!」

「麗華っち!来てくれたんスね!アリガトっス!にしてもあの騒ぎなんスか?」

「え、と…勇太くんが…」


事情を簡潔に話すと呆れたように笑って勇太くんの名前を呼んだ。


「勇太!」

「きゃー!お兄ちゃんの黄瀬くん!」

「兄貴が呼んでんぞ」

「おにいー!!」


涼太の声に反応した勇太くんは集団の中から出て来て大好きなやっと会えた涼太に抱きついた。そんな美しき兄弟愛を目の当たりにした女の子たちはみんな感動していた。すると今度は体育館の中から海常高校のキャプテンの笠松サンが出てきた。


「練習サボんなよ黄瀬っ!…て、ヒヨコ?」

「違うっスよ!俺の弟です…ほら挨拶は?」


涼太に抱えられていた勇太くんを見るなり笠松サンは不思議そうに首を傾げた。そんな笠松サンを見た涼太は笑って腕の中にいる勇太に挨拶を促した。頷いた勇太くんは涼太から離れて笠松サンの前まで行って挨拶をした。


「おとーとのきせゆーたっす!」

「ぶはっw語尾が確かに黄瀬そっくりだw…にしても可愛いな。本当に弟か?」

「マジっスよ!」

「…で、そっちの子は?」


屈んで勇太くんと同じ目線になった笠松サンは勇太くんの頭を優しく撫でると今度目線は私に向いた。私服で明らかにこの学校の生徒ではないと見てとれた私のことを怪訝そうに見つめ、また首を傾げた。そこで私もちゃんと自己紹介をした。


「はじめまして。涼太の幼馴染の月麗華です。今日は涼太がお弁当を忘れたそうなので弟の勇太くんと一緒にお邪魔しに来ました。…あとこれ差し入れなんで良かったらどうぞ」

「…っあ!黄瀬がさっき言ってた!はじめまして、キャプテンの笠松です。差し入れありがとうございます。体育館暑いですけど、どうぞ」


それだけ言うと涼太が事前に話していたのか納得してくれたみたいで差し入れを渡して勇太くんと一緒に体育館の中に案内された。すると笠松サンが声をかけて、差し入れのことに関してお礼と称して集合をかけた。

その後は涼太に頼まれていたお弁当を渡してわざわざ用意してくださったパイプ椅子に座って見学させてくれた。


「邪魔だったら直ぐに帰るから、涼太言ってね」

「はいっス。それじゃお弁当アリガト。勇太も大人しくしててっスね」

「うん!」

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