005.家族ごっこしようか



「雨かー…」

「せっかくの日曜日なのに残念だね」

「さつきも敦も征十郎も揃ってるっていうのに」


今日は日曜日。週間天気を見ていて殆どの日がこうして雨。そして日曜日まで雨と予報されていたのだ。いつもの日曜日ならみんなでどこかお出掛けに行ったり、外のコートでバスケをしたりするんだけど…生憎の雨に見舞われちゃあ、外になんて行く気はナイ。
もうすっかりみんな目は覚めて朝食も既にとった。リビングで各々くつろぎながら、私は今日何をしようかと考える。


「今日は一日中雨なのだよ」

「えーおとそいきたい」

「勇太、おそと、っス」

「おれもおとそいきたい」

「てめーはわざとか」


ジュニアたちは窓の外でしきりに降る雨を見つめたまま「外で遊びたい」と言っている。梅雨入りしてしまったここ最近では、雨が降ることが比較的多く外でも遊びもお預け状態になっているのだ。元気いっぱいのジュニアたちに家の中で我慢しなさいと言うのもそろそろ心苦しくなってくる。


「こうしてせっかくの日曜日を潰すのも勿体ないから何かしようか」

「あれ、珍しいね赤司くんがそんなこと言い出すなんて」

「心外だな。部の暇を見つけて戻ってきたんだからみんなで何かやりたいと思ってはいけないのか?」

「そんなことないよっ。さ、何する?」


征十郎の提案にみんなが頷くと何をするか決める。随分悩むのかと思っていたが真子ちゃんの発言により案外早く決まったのだ。


「かぞくごっこ」


真太郎の膝の上で大人しくしていた真子ちゃんはお兄ちゃんの真太郎を見上げて「ダメ?」と訴えた。すると真太郎は自分だけじゃ決められない、と周りのみんなを見た。
数秒ほど沈黙があったが誰も嫌だ、と言い出す人はおらず、家族ごっこに決まった。



「配役はこれでいいな」

「くじで決まったことだから文句はねっスけど!」

「真太郎が麗華の夫とはな」

「ホント珍しいよね、そのペア」

「うっ、うるさいのだよ!くじが決めたことなのだよ!」

「私が真太郎のお嫁さんね!…でも、そのペアもなかなかだよ?」


家族ごっこのキャラ設定の為みんなで予めくじを引いた。その結果、みんなにとやかく言われて顔を何故か赤らめている真太郎が私の旦那さん。
すると私も言い返すつもりはないけど、お。と思った目の前の二人に話題を逸らす。


「さつきの旦那が赤司…」

「完全なる亭主関白っスね」

「さっちんがんばー」

「敦、頑張れとはどういう意味だ。」


完全無双のあの赤司様は亭主関白以外の何物でもない。敦がさつきに頑張れと言いたくなるのもとてもわかる。だって当の本人のさつきの顔が引きつっているのだから。

そして続いて何故か私たちの息子が涼太にテツヤに光輝くんに小十郎くん。娘がテツナちゃんなのだ。
さつきと征十郎夫妻の息子は敦に大輝に勇太くんに健くん。それから娘が真子ちゃん。


「ボクは緑間くんのDNAを引き継いでいるわけですね」

「でも麗華っちのDNAも引き継いでいるってことになるっスよ!」

「お前らそこまでなりきらなくていいのだよ」

「ほう…僕の息子に大輝がいるのか。育て甲斐がありそうだな」

「ヤメロその微笑み!そして関係者ないとこでハサミだすな危ない!」

「おれたちきょーだいっス!」

「ごにんもいるね〜」


キャラ設定が決まっただけなのに随分と盛り上がり、ジュニアたちも何だか楽しそうである。たまには雨の日の日曜日もいいのかもしれないなんて考えているとよりアバウトな構成を決め家族ごっこは始まった。
何故か二家族は一緒に暮らしている設定らしい。


「「ただいま」」


玄関に見たてたリビングの扉を開いて旦那さん二人が同時に帰ってきた。それをお迎えする私にさつき。


「「おかえりなさい」」


あとから息子や娘がお迎えに来るが、赤司家の息子たちはダルそうに寝転がったまま動こうとしない。


「おいお前たち。一家の大黒柱のお父さんが疲れてご帰宅したんだぞ。出迎えもなければおかえりの言葉もないのか」

「んだよ。そこまでやんなきゃいけ「何か文句があるのか?」…いや、ねーけど……」

「じゃ、お父さんにおかえりなさいは?」

「「「おかえりなさーい」」」

「その気のない出迎え方は何なんだ?僕はお前たちにそんなしつけをした覚えはないぞ!」

「そもそもお前に一から育てられた覚えねーよ」

「何だって…?」

\シャキーン.シャキーン/

「わ〜、ごめんねお父さん〜。だからハサミしまって」


結局、ハサミを取り出した征十郎お父さんの威圧に負けて大輝たち息子は渋々役を演じることになったのだ。
と、一方こちらはテツナちゃんが案の定真太郎お父さんにベッタリで帰ってきてから離れないのである。お兄ちゃんのテツヤと真太郎はあまり仲がいいとは言えないけど普段からテツナちゃんは何故か真太郎に懐いているのだ。


「おとーさんおとーさん」

「テツナちゃんはお父さん大好きね」

「はい。おかーさんもおとーさんもみんなだいすきです」

「娘が大きくなって大嫌いとか言われないといいですね。お父さん」

「な…っ!人事を尽くせばそんなこと言われるはずもないのだよ!」

「でも大きくなった時に自分のお父さんが電波キャラだと知ったら嫌でも引くんじゃ…」

「黄瀬!何を言う!」

「ちょ、真太郎。今は涼太だよ」

「…むっ」


真太郎からすればかなり気恥ずかしいであろう涼太への名前呼び。今まで一度も名前で呼んだことがないのであれば違和感はかなりあるはずで…今更ながら私も真太郎のこと緑間くんとか涼太のこと黄瀬くんとか呼びたくないしなー…

ウズウズと膝の上にテツナちゃんを抱きかかえたまま何も喋ろうとしないのでどうしたことかと思えば、顔を何故か赤く染めて


「涼太!」


とまるで怒鳴るように言って見せたのだ。すると横にいた征十郎やさつきまでもがどうした真太郎(ミドリン)、と振り返ったのだ。


「…さて、じゃあ夕食にしよう。さつき今日のメニューは何だ」

「え、毎日俺らさつきの飯食ってる設定かよ!」

「何言ってんの大ちゃん。家族のご飯はお母さんが作るでしょ?」

「かーさんのつくるりょーりがいちばんす!」

「勇太はさつきの作る料理が好きなのか。それは母さん喜ぶなあ」

「…まじで食わされたら死ぬぞ、アイツ」

「さすがにそれやられちゃうと守らなくちゃね〜」

「たべれるならなんでもい〜」


何やらお隣では夕食の支度が始まったらしい。
…何もそこまでさつきの料理に怯えなくてもいいじゃない。彼女だってうまくなろうと頑張ってるんだから

なんて考えてても今やってるのは家族ごっこで、オモチャのおままごとの料理セットをテツナちゃんと小十郎くんが持ってきてくれた。


「ありがとねー、テツナちゃんに小十郎くん」

「はい」

「とーぜんのことだよ」


それから今日の夜ご飯のメニューは王道のカレーになった。みんなお手伝いしてくれると言うのでここは一先ずお母さんの私やお父さんの真太郎、お兄ちゃんズはジュニアたちを観察することにした。


「見てるから、どれを使うか選んでみてね」

「わかった。たまねぎとじんにんと」

「じんにんではない。にんじん、だ」

「じゃがいもにおにくと…」

「これは?」


珍しく小十郎くんが正しく言えなかったことを除けば今まで順調に材料を選別できたと思ったけど今光輝くんが右手に持っているのは何故か桃。そして左手にはきゅうり。それも何だか普通の顔なのでそれがまたふざけてるのか本気なのか分からない…私たちは顔を見合わせて苦笑いした。そういうところまで大輝に似てきたのか、と思ったりもした。
だけどそこにすかさず小十郎のツッコミが入った。


「だいき、かれーにももときゅーりはいれないぞ」

「そうなのか?」

「そうですよ」


ちょっと残念そうに桃ときゅうりを元あった場所に戻した光輝くん。


「小十郎とテツナはしっかりしてるのだよ」

「そうだね。大丈夫そう」

「光輝くんはお兄さんに似てきたんですかね」

「心配っスね…」


それから私たちも合流して、一緒に作業し始めた。だけどなんだか隣の方から不穏な空気が流れてきているのは事実で…気になって見てみれば一生懸命になって料理をしているであろうさつきの周りには顔を引きつらせ若干引き気味の姿勢に見えるみんながいた。
旦那さんであるはずの征十郎と大輝は見ていられないと言わんばかりにお手上げ状態。紫原兄弟は思わずお菓子を食べる手が止まり、真子ちゃんと勇太くんは硬直している。


「ままごとの時くらいマシだと思ってたのによ…」

「高校生でこれじゃ、既に手遅れか」

「ああ…」





prev next

 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -