さつきとテツヤ



一通りリビングにある段ボールの中から必要最低限のものは引っ張り出して整理した。ただこれ以上やってしまうと買い出しに行く時間が無くなってしまうので相変わらず大輝の手伝いをしていたさつきを無理矢理連れ出した。
取り敢えずさつきが帰ってくるまでは自らの手で片付けようとはしなさそうなので征十郎に言いつけてやった。


「はー…青峰くんて何で自分でやらないかなッ」

「まだ傍にさつきがいるって甘えてるからじゃない?」

「高校までついて行っちゃったからなァ…」


午後5時。日が暮れ出したこの時間に近くのスーパーまで買い出しにくる。今日の夕飯は取り敢えずハンバーグと決まったのでその食材やらなんやらを探す。
隣で腕を後ろに組みながらボヤくさつき。でもそりゃいつも大輝が一緒だったらボヤきの一つや二つも零したくなるわなぁ。
青峰くんのことが心配だから…。そう言ってさつきは高校まで大輝の傍にいると決めた。小さい頃から無茶苦茶な大輝が高校で一人になるのは確かに危険だ。だけどそれを見越してついていったさつきはなんていい幼馴染なんだ…
しかしこのテの話になるとあの話にも確実になるわけで。
ぷいっと頬を膨らませてなんとも可愛らしい表情をしたさつきは私に向かって言う。


「麗華はいいなッ!わたしもテツくんと同じガッコウ行きたかったよ!」

「…ごめんよ。」


幼馴染でありながら、さつきの恋心はいつも傍にいる大輝には向けられずにテツヤに向いてしまったのだ。アイスの棒がなんたらかんたら…と話されるのだがそれだけで恋に発展させてしまったさつきもさつきである。
さつきはずば抜けて誰よりも可愛いし、告白だって何回されたか分からない程。でもその度に断っているのは、…テツヤが好きだから。
「テツくーん!テツくん?あ、テツくんがね!テツくん、テツくん!」とテツヤに引っ付いてばっかり。これだけゾッコンなのにテツヤがさつきに向かないのがある意味謎だ。


「テツくんと敵になるなんて夢にも思わなかったしさ…」

「ホントにさつきってテツヤしか見えてないよね。いつも隣にいる大輝とかじゃダメなの?」

「え!青峰くん…?ダメって言ったら悪いから言えないけど…やっぱ、テツくんが一番だなあ」


何この小動物。めちゃくちゃ可愛いんですけど。エ。なんかテツヤがダメなら私が貰いたいんですけど。
いや、なんかこんな可愛い一途な子に振り向きもしないテツヤに若干殺意さえ芽生えちゃうんですけど。なんなのテツヤ。…は?

カートを押しながらひき肉を手にとるさつきがあまりにも健気で胸の奥が高鳴るのを覚えてしまった私は我慢することもできずにさつきに抱きついた。
するとさつきは驚いて「どしたの!?」って言ってるけど、すぐに笑ってよしよしまでしてくれた。
…守りたい、この笑顔。


「さつきホント好きー。大好きー。テツヤより私にしてよー。ねー、そうしようよっ?」

「ふふ。ありがと麗華。わたしも麗華大好きだよー。やっぱ麗華にしちゃおっかなー?」


そんなふざけた会話をしながら笑った。ひき肉のコーナーを離れて玉ねぎ、小麦粉、卵、牛乳、お米、パン…と今日の夕飯に必要なものや置いておいて損はない食材をカゴの中にいれる。さすがにこれだけ買ってしまうと持って帰るのが大変なので敦と真太郎を電話で呼ぶことにした。
レジを通ってお会計を済ませると二人とも一般人の比じゃないほど大きいのですぐに見つかった。二人に手を降って声をかけるとこっちに向かって歩いて来た。


「ごめんね、呼んじゃって」

「んー…お菓子もいっぱい買ってくれたみたいだからいいよー」

「お前らじゃ持てないと思ったから来てやっただけなのだよ。礼を言われるまででもない」


真太郎のツンデレが登場したところで、計五袋にまで及んだ食料品の数々を一人一つをもって(敦は二つ)帰路につく。私の隣には真太郎。そして私たちの前にはさつきとのっそりと歩く敦。こんな風にみんなで買い物したのいつぶりだっけかなあ…
さつきと敦は何だか楽しそうに会話をしている。その後ろで私と真太郎も他愛もないただの会話を繰り返す。


「真太郎って学校で高尾くんといるの?」

「アイツがついてくるからな。」

「ふーん。たまには優しくしてあげなきゃダメだよ、じゃないと相棒の高尾くんに愛想つかされたら息合わなくなっちゃうんだからね?」


真太郎のツンデレっぷりにはさすがにもう慣れた。だけど真太郎とあまり関わらない人の真太郎の印象は吉と凶、ハッキリし過ぎている。
ツンデレのデレである優しさが全面に出た時の真太郎と関わった人は何を言おうとも吉である。だがツンデレのツンが炸裂している最中に関わると反感を買い凶といった悪印象を与えてしまう。
…ほとんどの場合が後者な為、自ら真太郎に近付こうとする人は未だ少ない。本当は凄く友だち思いで優しい奴なんだけどなー。特に女子に対しては格別である。



「お前こそ友達はいるのか」

「いるよー。あ、でもやっぱテツヤと火神くんといるときの方が多いかも?」

「火神か…俺はアイツが気に食わんのだよ」


あー、うん。なんかそんな気がするよ。とはじめから分かっていたような返事をする。
そんなこんなでまたあの豪邸の門の前に着く。あれからジュニアたちがお庭に出て遊んでいた形跡はコレと無く、家の中から元気な声が聞こえて来た。


「ミドリンにムッくんありがと!じゃあ適当にキッチンのとこに置いといてー!」

「はーい」


さつきは私の部屋に置いてある携帯が気になったようでダッシュで階段を駆け上がって行った。マネージャーは大変だなあ…
両手に買い物袋をぶら下げた敦と真太郎と共にキッチンに向かう。リビングに顔を出すと征十郎と涼太がゆっくりソファに座って何やら楽しそうに話している。
二階からはジュニアたちの笑い声と大輝の気だるそうな注意をしているような声が聞こえる。…テツヤはどこ。私はとりあえずアイツに一言言いたいのよっ!
リビングに目を向けてもどこにもいる様子は無いのでとりあえずキッチンに荷物を置こうと目を向けるとと冷蔵庫を開けていたテツヤと目があった。


「テツヤ…ッ!!」

「みなさんお帰りなさい。」

「テツヤシメる!」


悠々と無表情のまま私たちに声をかけたテツヤにとんでもない言葉を口にした私。するとリビングのソファにいたはずの征十郎と涼太がキッチンにすっ飛んできて、私のすぐ後ろにいた敦と真太郎は思わず袋を落としてしまった。当の本人のテツヤは何が何だか分かっていない様子で唖然としている。

そんな顔して、いたいけな、私の大切なさつきの乙女心を踏みにじろうなんて許さないんだからね…っ!!?


「ちょ、ちょ麗華さん…っ!」

「麗華何をするのだよ!黒子が何をしたというのだよ!」

「麗華やめるんだ!取り敢えず落ち着いて話を聞かせてくれ!その内容でテツヤをシメていいか許可を出すから!」


私は直様テツヤの後ろに回って両腕を使って首をシメる。(いや、本当に殺そうだなんて微塵も思ってないからね!)あがが…と苦しそうに私の腕の中でモガくテツヤに周りでかなり慌てたように私に正気を取り戻そうとしている面々。
だけどこんなことしてもさつきが喜ぶなんて思ってないのでまた直ぐにテツヤから離れた。


「な…麗華さん、ボク何をしましたか…?」

「何もしてないよ!ただ乙女心踏みにじろうなんて考えてたら次は本気で殺しにかかるわよ!」


前で怯えたように私を見つめるテツヤに両手を腰に当てて言い張る。
だが、私の身長とテツヤの身長差は5センチ程しかないが、若干見上げるカタチになってしまうのがまたシマらなくてカッコ悪い。周りにいる面々ははじめは私が一体なにを言っているのか分からない様子だったが少し経つと何と無く把握したみたいだ。


「麗華ちゃーん!ご飯つくろー!…て、アレ?ちょ、テツくんどしたの!?涙目だよ!嫌なこと何かされた!?私が怒ってあげる!」


今回の原因であるさつきがキッチンにひょっこりと顔を出すとなんだか空気が一変したような気がした。そしてテツヤの様子がおかしいといち早く気が付いたさつきはテツヤの隣へすっ飛んできた。


「突然どうしたんスかね?麗華っち…」

「さつきのことじゃないのか?…多分」

「あー、黒子っちと桃井っちの間柄のことっスね。麗華っち桃井っち大好きっスもんね」


俺は取り敢えず落ち着いた麗華っちをキッチンに残して先ほどまでゆっくりしていたソファに再び赤司っちと一緒に腰掛ける。
まだ黒子っちと二人きりにしているのが心残りだけど、きっと何も起こらないはずだから。それに今は桃井っちがいるし!

けどなんで急に人が変わったみたいに黒子っちをシメる真似なんてしたんだろう?俺がどんなに女の子と話してても何しててもあんなに怒らないのに…



「…もう、麗華どしたの?」

「ごめん。なんか私テツヤに嫉妬したみたい」

「えー、何それー?」




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