003.私たちのこれから



「麗華」


只今絶賛夢の中であります。
土曜日である今日はこれと言って予定も無いので昼過ぎまで寝ると決めたのだ。
だけど気のせいか、耳元で私の名前を呼ぶ声がする。
いや、そんなはずはない。
だって今日は誰にも何も誘われなかったから。
だけど私の名前を呼ぶ声は止みそうに無い。


「麗華」

「麗華さん」


聞き覚えのあるその声は、気のせいなんかじゃないほど現実味を増して。
目を開けなくたって声の主が誰であるか確信できる。
間違い無く、間違い無く彼らであろう。
まだベッドの上で布団を被って目を開けようとも動こうともしない私に痺れを切らしたのか、ベッドのスプリング音がしたと同時に右隣に人影を感じた。


「いつまで寝る気だ。せっかく僕が帰ってきたというのに」

「征十郎…。ごめん眠い」

「ふざけたことを言うな。もう12時は回っている。どうせ麗華のことだから昼過ぎまで寝ようとか考えていたんだろう。だがもう12時過ぎて昼は過ぎた。さあ、充分だろう、起きろ麗華」


私の全てを見切ったように淡々と長文を言ってこなした彼は布団を剥いだ。
さすがにここまで言われてしまっては致し方がないので目を擦って開いた。
すると呆れたように腕を組んでため息を零しながら私を見る征十郎に、同じく呆れ気味に笑って私を見つめるテツヤの姿があった。
一体いつからいたのだろうか。
いくら私の家の鍵を渡してあるからとは言え、毎度のことこうして急に来られるのは少し困る。
…そもそも鍵を渡してしまっている私がいけない?
まだだらしなくパジャマ姿である私は気だるそうにベッドから身体をやっとの思いで起こした。


「征十郎、今日帰ってきたんだね」

「ああ。一緒に住むという家を見に行こうと思ってね」

「んー!!征ちゃんおかえりっ!」


私服に着替えて出かける準備をしていた最中に私は我慢できなくなり征十郎に正面から抱きついた。
両手を大きく広げて私より背の高い征十郎の首に巻きついた。
ついつい嬉しくなってしまったから。
男女の壁というのが存在してしまう限り、こうした過度のスキンシップは誤解を招く原因になってしまう。
実際、中学の時に学校でこうしてじゃれていた(?)ところをたくさんの人に見られて色んな誤解を招いてしまった。
抑えなくてはならないと思うものの、幼馴染である私たちにとってはこれが普通だから未だにこの癖が人様の前でも出てしまう。
征十郎の首筋に埋めた顔を上げると征十郎は私の頭をポンポンと軽く叩いた。


「僕が帰ってきたのがそんなに嬉しいか?」

「当たり前でしょ!ね?テツヤ」

「ハイ。幼馴染ですから」


ヒョイ、と征十郎から離れると当の征十郎本人は嬉しそうに笑っている。
たとえそれぞれの高校が違ったとしても、敵になってしまったとしても。
元は仲のいい幼馴染だもん。
離れてしまうのはそれはそれはとても寂しいことで。
たまに暇を見て帰ってきてくれる征十郎や敦を全力で温かく出迎える。
特に、ワタシ?


「ところでさー、どの辺にしたの?」

「いや、今までと然程変わりはないよ。ジュニアたちの保育園からは近い場所にした。ここから40分程度のところかな」

「今までと学校までの距離は変わりませんよ」


そうなんだ。と相槌をうってから家を出る。
ちゃんと鍵を閉めたことをテツヤと征十郎が確認すると先に歩き始めた。
その二人を後ろから追う。
征十郎とテツヤってホントにあとの四人に比べたら小さいよなー。
こんなこと本人に言ったらとんでもない程怒られちゃうんだろうから言わないけどっ
征十郎は高1にして洛山高校のレギュラーとして、それに主将としても活躍している。
聞く限りなかなかうまく向こうでもやっているそうで。
休みを作っては必ずこっちに戻ってくる


「わ…っ、えぇっ!!?」

「やっぱりいつ見ても大きいですよね、この家」


その口ぶりからすると、テツヤは前々からこの目の前にどんと構える大きなお家の存在を知っていたみたいですね。
それにしてもこれはなに…
立派な白を基調としたオシャレな外観のお家。
これだったら、育ち盛りの男の子が六人とやんちゃなお子ちゃま六人と私が一緒にいても生活に支障をきたすことはないだろう。
というか一体どうしたらこのお家に住むことができたのでしょうか…
征十郎って、ホントに世界の赤司さま?さまさま?
チラッと隣にいる征十郎の顔を覗くとまさにドヤ顔の如く嬉しそうにニヤついていた。
すると征十郎も顔を私の方に向けた。


「麗華の驚く顔を見るといつもやった甲斐があると思えるよ」

「こ、これは誰でも驚くんじゃないかな…?」

「そうだ。もう電気や水道は使えるようにしてあるから昼ごはんはここで食べて行こうか」

「そうですね」


いつでも準備万端な征十郎がここまで準備万端だったとは…
ふ、と目に入った表札に目をやると既に"赤司.紫原.青峰.緑間.黄瀬.黒子.月と記されていた。
一緒に住むと連絡がきたのはホントについ最近のこと。
下手したら一週間経ってないんじゃないかと思う。
門を抜けると芝生の庭を突っ切るようにして玄関を目指す。
芝生の庭はとても陽射しが当たり洗濯物を干す場所には最適でジュニアたちが元気に遊ぶにも最適であると思う。
玄関の前に立つとポケットから鍵を取り出して扉を開いた征十郎。
まだ真新しいその白の扉を開けると外からは見えなかった部屋の全貌が見えた。
中も全体的に白を基調としていて二階へと続く階段が見える。
これから住む家だと分かっているのだけど自然と口から「おじゃまします…」と出てきてしまった。


「これからここが麗華の家になるのにおじゃましますはおかしいんじゃないのか?」

「僕も言いそうになりました」

「テツヤ中に入るのは初めてなの?」

「イエ。中に入るのは二回目ですかね」


靴を脱いでいつから用意されていたのかスリッパに履き替えて家の中を歩き回る。
いやー、それにしても本当に凄いと思う。
一回の廊下を真っ直ぐに行って扉を開くとリビングに繋がっていて、ダイニングがありキッキンもあった。
大きなリビングには既にテレビやテーブルや食器棚など必要最低限の家具はあった。
大きな窓からはお庭が見えて、昼間は太陽の光だけで充分なほど明るい。
キッチンはとても広くて、冷蔵庫も大きい。
引き出しも大量にあって食器もたくさん余裕で収納できる。
キッチンからはリビングの全貌が見ることができて、お庭も見ることができる。
他に一階にはお風呂とトイレが完備されていて、客間のような部屋も一室あった。
二階はすべて各々の部屋になっているようで全てで七室あった。
それぞれの部屋の扉には既にプレートが下がっていて


「僕の隣は麗華にしたよ」

「僕は一番端なんですね。」

「嫌だったかい?テツヤ」

「そんなことないですよ」

「これは全て征十郎の独断と偏見ですか?」

「そうだよ」


兄弟、2人で一つの部屋を使うらしくて
テツヤとテツナちゃんを端として、廊下を挟んでその前が真太郎と真子ちゃん。
からのテツヤの横が征十郎と小十郎くんで正面は大輝と光輝くん。
征十郎の横は私でその正面が敦と健くん。
私の横が涼太と勇太くん、そしてその正面にあるのが一際大きな部屋。
どの部屋にも机やタンスなどが完備されていたのにも関わらず、この大きな部屋には何も無い。
端の部屋なので窓が二つあってよく陽射しが入るくらい。
クローゼットがあるだけで他には本当に何も無い。
一体ここは何なのだろうと不思議に思っていると後から入ってきた征十郎が教えてくれた。


「ここはみんなで寝る部屋だよ。昼間はジュニアたちの遊び場として使って構わない」

「だから部屋にベッドが無かったんですね。



部屋にベッドを作ってしまったら一人になる小十郎くんと健くんと私が可哀想だということで夜はみんなで寝ることを決めてくれたそう。
部活だって、ましてや主将だから忙しいに決まっているのにここまで考えてくれていたなんて


「やっぱ私たちには征十郎がいないとダメだね」

「いつまでも頼られるのでは困るけどね」

「赤司くんはいつまでも僕たちのキャプテンですよ」


これから私たちはここにみんなで住むことになるんだなあ…
先が見えないことに不安は隠せないけど、またみんなとずっと一緒にいられるんだと思うと嬉しさも隠せないでいる。






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