3(桜井side)
あれからやっぱり部活に来ることの無かった青峰さん。
会いたくないとは言ったけど、あの女の子とはどうなったのかはとても気になる…
最近僕は青峰さんに対して露骨に顔に出してしまっている気がして。
つまんなそうだな、とか何かあったか、とか不安なのか、とか気にしてもらっていて。
何も話さずに無理に笑っている僕を見てもう呆れて女の子と付き合いだしたりするのだろうか。
そうすれば僕は、自動、的に…っ
「捨てられるんですか…っ、?」
思わず言葉になって涙と共に零れる。
そういえば最近、妙に涙腺が緩い気がする。
こんなに僕、弱くて泣き虫だったんだっけ…
こんな情けない姿を人様にお見せできる訳なんてなくって既にみんなは帰宅してガランと空いた更衣室の隅で声を押し殺して泣いた。
脳裏に過るのは全て青峰さん。
笑ってる青峰さんに、怒ってる青峰さん、寝ている青峰さんに、楽しそうに会話する青峰さん。
こんなに、こんなにまだ好きなのに…
終わりだなんて寂し過ぎです…っ
「え!?…あれ、桜井くん?」
「もっ、もも桃井さんっ!ス、スミマセンッ…」
「泣いてる。青峰くんと何かあったんだね」
みんなが帰ったあとに鍵閉めなどの後片付けをすべてこなしてくれるために、今日も更衣室にやってきた桃井さん。
もう誰もいないと思っていたらしく更衣室の扉を開けて僕と目があったときには目を大きく開いて驚いていた。
桃井さんとはよく青峰さんのことを相談に乗ってもらっている。
幼馴染として付き合ってきた長い年月は、最近付き合いはじめた僕とは比べものにならない。
いつも桃井さんは聞き役に回ってくれてアドバイスとかもたくさんくれる。
…だけど僕、今はメンタル持ちそうにありません。
「青峰くんが、ね…」
「僕、そのうち捨てられてしまうんでしょうか」
いつもと様子が明らかに違うことに気付いた桃井さんが話聞くし、一緒に帰ろう。と誘ってくれた。
街灯しかない薄暗い道を二人で並んで歩く。
もちろん、僕のなよなよした相談に乗ってもらいながら。
最近の僕の青峰さんに対する態度、女の子に手紙を渡されて告白されていたこと、それから自分の心境を一通り全て話すと横にいた桃井さんは、うーん…と考え出してくれた様子。
「…桜井くん案外心配しなくても良さそうだよ。」
「え?」
「だけどそのこと、全部青峰くんに話した方がいいよ」
明るめのトーンでいつものようにアドバイスをくれた桃井さん。
案外心配しなくても良さそう…?
僕の悩みは大したことじゃないんでしょうか。
それに、このこと全て青峰さんに話した方がいいって…
幼馴染の桃井さんが言うんだから間違ってはないんだろうけど、こんなこと話して怒られないだろうか…
横に桃井さんがいるのに僕はそのあと何も言わずに一人考え込んでしまった。
「それじゃあ、桜井くん頑張ってね!なるべく早く言わないと青峰くんもそんなに忍耐強い方じゃないからねー」
「へ?あ、でもありがとうございました!スミマセンッ!」
桃井さんに別れ際に言われたことが少し胸に引っかかる。
青峰さんは忍耐強くない…?
じゃあ、もしかしたら僕から全部話してもらえること待ってるんじゃ!
早くしないと、本当に捨てられちゃうかもしれない。
そう思った僕は、鞄に入っている携帯を取り出して連絡先の中から青峰大輝の文字を探す。
会いたい。
今すぐ会って話がしたい…!
今度はそんな衝動に襲われて通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。
「青峰さん、出て…っ!」
プルル、とコール音だけが僕の耳に入ってきた。
車の騒音なんて、近くを通り過ぎる人の話し声だなんて聞こえない。
聞こえるのは…
「良」
大好きな、彼の声だけ。
ーここまで愛しいと思えるんだ
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