「なぁ、お前って野球のポジションでどこ好きなんだ?」
「キャッチャー以外は全部」
「………はあ?」
そんな会話をしたのがつい5分前。授業開始前の休み時間が終わるギリギリのときだ。
俺の彼女である名前は野球が好きだ。野球部の俺となかなか意見が合うくらい詳しい。
そこでふと浮かんだ“好きなポジションは?”という俺の疑問を聞いてみたら、答えがアレだ。
彼氏がキャッチャーなのに!
「………なぁ、花井」
「ん?」
俺は前の席にいた同じ野球部の花井に声をかけた。
「お前さ、もしも自分の彼女に自分がやってるポジションだけ嫌いだっつわれたらどーする」
「………はあ?」
何言ってんだと言わんばかりの顔で振り向かれた。
「…なんだよ、名字にンなこと言われたのか?」
「言われた。5分前に。真顔で」
「名字がキャッチャー嫌い、ねぇ。…理由は?」
「聞く前に鐘鳴りやがった」
俺の顔は不機嫌そうらしい。花井に怒んなと言われた。
………怒ってねーよ。
「別にポジションの好き嫌いなんて深い意味ねーだろ。名字は選手じゃねーし」
「仮にも彼氏のポジションだぞ!?それだけ嫌いなんて言うか、フツー!」
花井はまた苦笑いで怒んなと言ってきた。
……確かに、イライラはしてきたな。
苦笑いの花井と話しているとふと聞き覚えのある声たちが聞こえた。
何個か前にいる名前とマネージャーの篠岡だ。
「名前ちゃん、なんでキャッチャーだけ嫌いなの?」
「えっ?」
「ごめんね、さっき阿部くんと話してるの聞こえちゃって…」
「あぁ、いいよいいよ」
「でさ、なんでキャッチャーだけ嫌いなの?阿部くんだってキャッチャーなのに…」
「だって……」
篠岡の質問は俺の疑問そのままだった。
俺はその篠岡の質問に対する名前の答えに耳を傾けた。
そこまでキャッチャーを嫌う名前の理由は…?
「……だって、キャッチャーってマスク被るじゃん」
「………え?」
「………は?」
思わず間抜けな声を出してしまい、篠岡と声が被った。
「キャッチャーって打撃以外でマスクを必ず被るでしょ?それが嫌なの」
「えっと、なんで?」
「だってせっかく一番かっこいいときの、真剣な顔が見れないじゃん」
「――――!」
素直、それは凶器
「一番キラキラしてる好きな人の顔が見れないポジションなんて、嫌いだよ」
名前の言葉に俺は赤面。
はにかんだように言う名前の顔を、声を、好きだと思う辺り俺も重傷か…。
「……花井、キャッチャーってマスク必要?」
「はあ?」
END
2011.08.28
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