特に何もない部屋の中央にあるベッドに腰かけボーっと遠くを見つめる。
明けていた瞳をすっと閉じ、思考をめぐらせていく。
あと数時間後には、全部終わる。俺のしてきたことが、全て終わる。
これでいい、これしかない。
ずっとそう思い描いていた結末が、やっと訪れる。
そう思うのに、何故か心のどこかに虚無感を感じるのは何故だろうか?
「ルル、わたし」
このままベッドに横になろうか、なんて考えていたときに部屋に聞こえてきた声。
声を聞いただけで誰が来たのかなんて簡単に分かる。
俺はどうぞ、と一言掛けてドアのほうへと視線を送る。
入ってきたのは自分の片腕、婚約者の名前だ。
「どうしたんだ、名前。もう0時を回っているぞ」
「知ってる」
「俺に何かようか?」
「たいした用は無いけど…」
「じゃあ、どうした?」
「………」
幼く可愛らしい顔の割りに無口でクールな名前。はっきりと確信を言わない名前。
だけど長い付き合いだ、名前が言わんとしていることくらい分かる。
だけどそれをこちらから察しようとせずに、優しく、優しく問いかけ誘導する。
「……寝れ、ないの」
「そんなことだろうと思ったよ」
そう言って苦笑して見せれば頬を赤らめる名前。
名前のたまに見せるこんな表情を見るのが、俺は好きだったりする。
「明日のことが不安で、明日が来てしまうことが、わたし…恐くて…っ」
「……………」
そう話す名前の顔は、赤かったはずの顔は、だんだんと蒼くなっていく。
不安。恐怖。絶望。そんな言葉が当てはまるような顔だった。
俺は前に立っていた名前の体をそっと引き寄せ自分の足の間に座らせ、向き合う。
「名前、そんな顔しないでくれ…。名前の苦しそうな顔は、見たくない」
「なっ、なら、明日の事……!」
名前は言いかけて止める。
おそらく“明日の事を考え直してほしい”と言いたかったのだろう。
しかし口を紡ぐ名前。明日は―――ゼロレクイエムの、始まりの日だ。
「名前……」
「っ、ごめん、ルル…っ。わたし、我が儘ばっか…」
瞳一杯に涙をためる名前。
ああ、最期なのにそんな顔をさせてしまった。
名前は本当にいい理解者だ。
頭では分かっているし整理もついているのだろう。明日起こる結末を。
ただ、本能的にやはり悔いや憂いがあるのだろう。
…当然、俺も。
「名前。泣かないで、名前」
「んっ、うんっ…」
流れ出す涙を指で掬いとる。
そして自然と絡み合う俺と名前の視線。
そしてどちらともなく、口づける。
出逢って、婚約して。生まれてはじめての、名前とのキスだった。
口づけた瞬間、俺の瞳からも一筋の雫が流れていった。
初めてのキス、最期のキス
やっと形として結ばれたのに、これが最期。
悲しい、愛おしい。
END
2012.01.07
←back
←back