(急げ、急げ、急げ、急げ―――――!)


はあ、はあ、と息を切らしながら全力疾走。
時計を見れば、もう4時43分。約束の時間は、2時。


(急げ、急げ)


走りながら自分に自己暗示。急げ急げと言い聞かせる。

予定では、約束どおりの時間にいけるはずだった。はずだったのに…。
朝から気持ちが少し浮ついていたのは認める。だって2ヶ月ぶりのデートなんだもん。
でも、仕事のときは割り切るべきだった。おかげでミス続き…。
そのミスの後始末やお説教のおかげで終わったのは4時30分。時間的には、絶望的だった。


(お願い、お願い、お願い…!まだいて、逢いたいの、あなたの笑顔が見たい…!!)


彼ならきっといてくれる。そう信じている気持ちはあるのに。
それでも最後によぎるのは、もういないんじゃないかって不安。
だんだんとその不安に押しつぶされるかのように、涙が溢れ出て視界が歪む。


「きゃっ」


バキっという鈍い音とともに私は倒れる。
足元を見れば、靴のヒールが折れて転がっていた。
着ていた服は土が付き汚れ、足首は今の転倒でひねり、最悪の状態。


「もう、最悪…」


そう呟きながらも立ち上がり、再び走り出す。
だんだん高さの違う足がイヤになり、履いていたヒールの靴を手に持ち、再び走り出す。
髪だってセットして、今度のデートで着ようと決めていた新品の服も着て、可愛いってあの大好きな笑顔で言ってもらうことを想像していた。
それなのに、もうそんなこともきっと叶わない。髪はぐちゃぐちゃ、服は土だらけ、とても可愛いなんて言われる見てくれじゃない。

それでも、駆け出す。足は止まらない、むしろさっきよりも早いくらい。
逢いたいんだ、とにかく逢いたい。彼にどう思われてもいいから、とにかく彼の顔を見たいの。
その一心で、駆け出す――――


「っ、はあ」


やっとの思いでたどり着いた待ち合わせ場所。中央の噴水が目印の公園。
噴水のほうをまっすぐ見つめれば、そこには――――


「い、ない……はは、やっぱり、いないよね…」


渇いた笑いをして今まで走って乱れた息を整えながらゆっくりと噴水の方へと歩く。
噴水のふちに座らず、噴水のほうをまっすぐ見据える。
転倒してから引っ込んでいた涙が、再び溢れ出そうになる。

時計をふと見て、もうすぐ時刻は5時になろうとしていた。


「……帰ろう」


ここにいつまでいても意味はない。ただ空しく、悲しくなるだけだから。
そう思い噴水に背を向けてきた道を戻ろうとした。


「………名前?」


そのとき、ふとかけられた声。私は弾かれた様に後ろを見た。
するとそこにいたのは、大好きな大好きな、彼。


「ディ、ノ」

「やっぱり名前か!よかったーきてくれたんだな」

「ディーノ…なんで、ここに…?」

「名前を待ってたんだけど…って、どうしたんだ!その格好!ボロボロじゃねーか…」

「っ、ディ…ノ…」

「どうした、名前。転んだのか?どこか怪我したのか?」

「ディーノ…っ、好きっ。大好きっ」


涙を流しながら、ディーノを見つめながら、愛の言葉を伝える。
するとディーノ一瞬驚いた顔をした後、私の大好きな笑顔で答えてくれた。



PM5:00、公園噴水前にて



「俺も、名前が大好きだっ」


満面の笑みのディーノの後ろの噴水が、5時ちょうどに大きく水を噴いた。
この時間帯独特の夕日と、後ろで大きく吹き出る水と、彼の綺麗な色をした金髪が、妙にマッチしていて。
キラキラ輝く彼が、こんなにも愛しいと再確認できた。



END
2012.03.11



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