「ったくもー…先輩たち人使い荒らすぎ!」


ブツブツと文句を言いながら教室を行き来する。
生徒会に入っているわたしは現在副会長を任されている。
夏休み直前、世代交代の時期。わたしを次期会長にしようとしている現会長が“一通りの仕事こなせれば安心!”とか言ってわたしに生徒会の仕事をほぼ全部任せてきた。

………絶対仕事めんどくさくて押し付けただけだ。


「あのナマケモ会長めっ………覚えてろ!」


悪態をつきながらも手を動かしつづける。
今は前期の生徒会、委員会の反省やら決算やらを冊子にまとめて各教室に届けているところだ。

放課後直ぐに始めて、気づけばもう7時手前だ。
やっと、終わる。


「会長ったら説明下手だから最初間違えて手間増えたし、過去のやつそのまま使ったらわかりづらいから手直し加えたりしたから、本当に予想以上に時間かかった…」


はあ、とため息をひとつ。頑張った、自分。
あとは1年生の分を運んでおしまいだ。
わたしは4階へと昇る。……が、


「…ま、前が見えん……!」


4階は何度も行くの面倒だ、とか思った自分のバカ!
いっぺんに全クラス分持ったから前見えないし!超重いし!
このままじゃ………事故る!

そう危機感を感じながらも階段を昇る足は止めない。
現在3階と4階の中間、あと少しで4階。
ここまで来たら、後には引けないじゃない!?


「…でも、やっぱ足元の見えない階段は怖いわあ…」


そうぼやきながら一段一段昇る。


「ん、あれ名前さん?」

「へっ!?や、あっ、ちょっ―――!」

「!?」


すると後ろから突然呼ばれた名前。しかも聞き覚えのある声。
わたしは驚いてバランスを崩し、しかも足を踏み外して背中から後ろへ傾いていく。

痛いのはイヤー!なんて思いながら倒れていけば、僅かな衝撃とバサバサと紙が落ちる音。
予想外の衝撃の少なさに目を開ければ、そこには大きな目を更に大きくしてわたしの腕や背中を抱えて下敷きになっている声の主―仲沢が、そこにはいた。


「な、かざわ……?」

「あ〜びびったあ…。名前さん、大丈夫?」

「え、あうん…大丈夫」

「よかったー。ホントかなりびびった」

「仲沢、アンタなんでここに…」

「練習終わって教室に忘れ物したのに気づいて、戻ってみたら名前さん発見」

「ああ、なるほど…」

「声かけただけでこっちに落ちてきたから驚いたっすよー」

「あは、ごめん…」

「でも、名前さんが無事で良かった…ホントに」


心底安心したような顔をする仲沢。
そして気づく、あまりの仲沢との距離の近さに。
わたしが仲沢に乗っかる形で、仲沢の腕が背中に緩く回っていて、顔が目の前で。

意識した途端、何だか恥ずかしくなった。顔に熱が集中してるのがわかる。


「な、かざわ……」

「……名前さん?」

「………………」

「………………」


わたしの気持ちが移ったのか、仲沢の顔が変わっていく。
目線が絡み合い、顔が段々近づいていく。

キス、される――――?


「……っ、名前さん、紙落ちちゃったね。集めるの、手伝います」

「あっ…………うん、」



(されても構わなかったのに)



寸でのところで離れていった仲沢に、どこか物足りなさを感じるわたし。

されても、よかった……それくらい、貴方が好きです。
気付いてよ、貴方から。



END
2012.02.04



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