23時を回ろうかというとき。俺は一件のマンションの一室を訪ねにいった。
ドンドンと扉を何度か叩けば部屋の主は顔を出す。その顔はどこかうんざりしていた。
「…………近所メーワク」
「オマエがさっさと出れば問題ねーだろ」
そう言いながら俺は部屋の主である名前の許可も取らず部屋に入る。
名前の顔は尚もうんざりしたよ様子だった。
「ちょっと、」
「腹減った。何か作ってくれよ」
「ったく。球界きっての左腕で新人王間違いなしのエース様がこんな時間に女の部屋来ていいのかしらね」
「プライベートはカンケーネー」
はあ。そうため息をついてキッチンの前に立ちテキパキと手を動かし始める名前。
俺はソファでくつろぎスポーツニュースを見ながら夜食が出来上がるのを待つ。
それから10分ほどで名前は料理を運んでやってきた。
「おー、うまそっ」
「メシアガレ」
そう言って俺はガツガツと食べていく。
うん、相変わらず美味いな。
俺は飯を食い、名前はぼーっとテレビを見ていた。
そんなとき、ヴーというバイブ音が聞こえてきた。
音のした方を見れば白い名前の携帯がランプを点しながら震えていた。
名前は立ち上がり、携帯を持ってベランダへ。
「…もしもし?」
どうやら電話のようだ。
少し開いたベランダの扉の隙間から話し声が聞こえてくる。
「……だから……っだって…………でしょ」
小さく聞こえてくる話し声。
出来るだけ聞かないようにしようとはする。
しかし少し大きなテレビの音より微かに聞こえてくる音に意識が傾いてしまう。
「……ちょっと…………まだ、そんな………ねえ、」
(………揉めてんのか?)
「………やだ。…………だから、……………寛基」
「!」
「…っえ!?」
大学の友達とケンカでもしたか、そう思いながら名前の声に耳を傾ける。
すると出てきた名前。“寛基”。明らかに男の名前。
俺はその名前を聞いた瞬間、飯を食うのを放棄しベランダの扉を乱暴に開けて名前の携帯を奪っていた。
「ちょ、どーしたのよ」
「……………」
「返して、携帯。まだ話の途中…」
大きな抵抗もせず、相変わらず冷静に話し掛けてくる名前。
俺はそんな名前の言葉も無視して奪った携帯を持った手に力を入れる。そして終話ボタンを無言で押した。
「ちょっと、元希。何して…」
「誰だよ」
「………は?」
「誰だよ、“寛基”って」
少し声のトーンを下げて名前に問う。
少しは焦った顔をするか。俺はそう思ったが、実際は違った。
名前はニヤリと微笑んだ。
「何よ元希、それ嫉妬?」
「………は?」
「怒ったんでしょ、ワタシが男と電話してたから」
「な、何言って……」
「勘違いするな、遊びだよ」
「高校時代、元希がワタシに言った台詞だよ」
「だから、なんだよ」
「元希、遊びじゃなくてワタシに本気になってるんじゃない?」
そう不適に笑う名前。その名前の顔は、どこか嬉しそうだった。
まるで両想いを喜んでいるかのように。
END
2011.09.25
リライト様よりお題。
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