漆黒の髪に赤い瞳。月明かりに浮かぶ端整な顔。
美しい――――。それが僕の彼女への第一印象だった。


「だ、誰ですか…?」

「あ、えっと…僕は、」


ガタリ、音を立てながら行き場のない後方へと後ずさっていく彼女。
何かに、怯えている?そんな印象を受けた。
僕は出来るだけそんな彼女を落ち着かせるように近付いていく。


「突然入ってきて、驚かせてしまったみたいだね。僕の名前は枢木スザク、軍人だ」

「軍、人さん…。そんな人が、何故ここへ…?」

「実は任務中に墜落して、この島の海岸に流れ着いたんだ。それで歩いていたら、この小屋を見つけた」

「そう、だったんですか…」


ありのままに自分の状況を語る。
初対面の人間に不信感を持たせてはいけない。
しかし彼女の表情は未だに少し硬く、不安の色があった。

彼女は少し間をあけ、ゆっくりと僕のほうへ近付いてきた。そして、目の前に。


「…あの、顔を触っても……いいですか?」

「え……」


控えめに、そう尋ねてきた彼女。
普段滅多に聞かれないような質問に、僕は困惑する。

すると彼女は自身の顔の方へ指を向けた。


「わたし、目が見えないんです」

「!?」


月明かりと小さな灯に照らされた彼女の顔。
そんな彼女の表情は、苦笑いだった。


「小さな頃から見えなくて。だから状況もうまく把握できません」

「だから、僕が入ってきたときに怯えて…」

「はい。だから、貴方の顔もわかりません」

「………………」

「でも、顔を触ればわかります。貴方がどんな人なのか、どんな表情をしているのか」


そう言って彼女はゆっくり僕の方へ手を伸ばしてくる。
最初は僕の胸元に手が届く。そこからだんだん上へ上へと向かう。
そして辿り着いた、僕の顔。彼女は僕の顔をぺたぺたと触る。僕はくすぐったいと思いながらそのままでいる。


「………髪の毛、ふわふわですね。すごく綺麗な顔立ち、です」


触りながら感想を言う彼女。少し、照れる。

やがて彼女は手を離した。
そして柔らかく、微笑む。


「……貴方が嘘をついていないのが、わかりました」

「え、」

「墜落してしまった、という事は元の場所へ戻る手段がない、という事ですか?」

「あ、はい」

「それなら、是非この家を使ってください」

「いいんですか?」

「はい。貴方となら安心して一緒にいられそうですから」


そう言って微笑む彼女の表情は、すごく穏やかだった。
先程よりも近い距離で見る彼女の顔はすごくすごく、やっぱり美しかった。



3rd.黒の中に照らされた笑み
(薄暗い中微笑む彼女の顔は輝いて見えた)



END
2011.09.17

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