「それじゃあわたし帰るね、沙羅」

「うん!いっつもお見舞いありがとねー」

「親友なんだから当たり前でしょ。それに、沙羅がケガしたのはわたしの責任もあるんだし…」

「お見舞い来てくれるのは素直に嬉しいけど、アノコトはあたしだって悪いんだから自業自得!儚は気にしないのっ」

「………うん、ありがとう沙羅。GW中は毎日来るからね!それじゃあお大事に」


ありがとう、バイバイ!と言って見送ってくれる親友の沙羅に背を向けて病室から出る。

沙羅は幼馴染で同じ氷帝学園でクラスメイト。そんな沙羅がこの間部活で足を骨折して入院してしまった。沙羅はお互い様だと言うが、やっぱり私が原因で…。
考えすぎるのは良くないと思い気にしないようにはするがやはり人に、ましてや親友にケガを負わせたとなると気が滅入る。

そう思っていた矢先、わたしは“ある人”に出逢う。
今ではかけがえのない、大切な人に―――


「さてと…お見舞いも終わったし、帰らなくちゃなあ」


沙羅のお見舞いを済ませ、帰ろうと出入口に向かう。…が、私は体だけは本当に健康で全くもって病院に来ない。そのためなのか…


「あれ?ここって…沙羅の病室!また戻ってきちゃったの!?」


これってまさか、迷子……?中3にもなって迷子…!?

自分の状況がわかって少し不安になる。そして思い出す、わたし方向音痴だった…。
不安な思いのまま兎に角闇雲に歩き回って出口を探す。


「きゃっ!!」
「うわっ」


院内を歩き回る。そして何回目かわからない曲がり角を曲がる。
すると前から来た人と正面衝突してしまう。


「だだだ大丈夫ですか!?」

「う、うん…大丈夫だよ」


ぶつかってしまった人を慌てて見れば服装からして入院患者。
ケガをさせたら一大事!と思って余計に慌ててしまう。

そんなわたしを見てなのか、ぶつかってしまった人は優しく微笑みながらわたしを見る。


「君こそ大丈夫かい?」

「あ、大丈夫ですっ!!」

「ぶつかってしまって、ごめんね」

「そんな!ちゃんと前を向いていなかった私が悪いですからっ!」

「そんな事ないよ。俺もちゃんと前を見れていなかったから」


微笑みを絶やさず大丈夫だといい、尻餅を付いていたわたしの手を取り立たせてくれた。
そして再三わたしに大丈夫かと聞いてくる。

本当に優しい人………。


「それじゃあ、俺は病室戻ります」

「あっ、ちょっと待って下さい!」

「え?」


私はとっさに戻ろうとしているこの人を呼び止めた。


「ぶつかったお詫びって訳じゃないですけど、何かしたいです!」

「え……?」

「入院している方にぶつかって、そのまま立ち去るってなんだか申し訳ないですし…」


それに何故かはわからないけれど、この人……すごく気になる。


「そんなこと、気にしなくて大丈夫ですよ?俺は何ともないし」

「でも……その、」

「………それじゃあ、俺の話相手になってくれないかな?」

「…話相手?」

「たまに友達がお見舞いには来てくれるけど頻繁には来れてなくて。暇なんだよね、病院って。君に時間があったらでいいんだけど…どうかな?」

「全然いいです!私も友達のお見舞いでGW中毎日病院に来るんです!」

「本当?ありがとう。俺は510号室の幸村精市。中3だよ」

「あ、同い年ですね。私は高橋儚です」

「それじゃあこれからよろしくね、高橋さん」

「こちらこそよろしく、幸村くん!」


こうしてわたしと幸村くんは出逢った。
特に強い理由はなかったわたしの無理なお願いを、深く追求せずに聞き入れてくれた幸村くん。

本当に、本当に優しい人だ。


「高橋さん、まだ時間あるかな?」

「あ、はい。帰っても特にやることもないので」

「よかったら早速話さないかな?」

「はいっ!」


幸村くんの誘いを受けて病室へ。幸村くんの病室はすぐそこにあった。
ちなみに幸村くんは中庭の散歩をして病室に戻るところだったらしい。そして出入口はもう少し遠いところにあるとか…。


「幸村くんって立海の人なんだ」

「うん。高橋さんは…」

「氷帝学園に行ってます」

「氷帝?ここ、神奈川だけど…何でわざわざ?」

「あ、入院してる友達のお父さんがここのお医者さんで」

「へぇ…さすが氷帝学園の生徒だね」


やっぱりずっと笑みを絶やさない幸村くん。そんな幸村くんを見ているとこっちまで笑みが零れる。

それからわたし達はいろいろな話をした。
主に学校の話しとか、自分たちの身の上話とか。知り合ってばかりだからそんな話をたくさん。
幸村くんは入院して半年くらいらしい。テニス部の部長さんで、全国大会復帰を目指しているんだとか。

テニスの話をするときの幸村くんは、すごく穏やかな顔をしていた。


「そういえば時間、大丈夫?」

「え…ってもう6時!?わたし帰らなきゃ!」


幸村くんの言葉で病室の時計を見てみれば針は6時を10分ほど過ぎているところだった。
バタバタと慌てて帰り支度を始める。


「フフフ…話していると時間なんて直ぐに過ぎちゃうね」

「本当に。こんなに夢中になって誰かと話したのなんて久しぶりでした」

「俺もだよ」


にこにこ言う幸村くんに、わたしも笑う。
彼の笑顔には、引き込まれる。


「それじゃあ、明日もまた来ますね!」

「うん、楽しみに待ってるよ」


そう言ってわたしは病室を出る。
そのときも、わたしたちはやっぱり笑顔で。



君と居ると笑わずにはいられない
(あなたの笑顔はわたしを笑顔にしてくれる)



END
2011.08.16

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