―――――私立時枝学園。
巷では結構有名なお金持ち学校で中高一貫のエスカレーター式。
偏差値もそこそこ高い進学校でドイツに姉妹校があって。
生徒の意見を尊重させる教育方針で開放感のある学校。
あたしはそんな学校に通っていること以外はごくごく普通で、どこにでもいるただの高校生。


だけど…そんな平凡なあたしの、平凡な学校生活も、今日から非凡な毎日に変わってしまう―――
――ここの、生徒会を中心とした方々によって。



1st 生徒会からのご指名。



「湊ー!!」

「あ、雫。おはよっ!」


いつもと同じ道を通って家から学校へ。外で何人かの友達と軽い挨拶を交わしたりしながら教室に入る。
教室に入れば真っ先に声をかけてくるのは、親友の篠原雫。彼女は綺麗な顔に微笑を浮かべてあたしに挨拶をしてくる。
そんな雫に挨拶を返しながら自分の席へ。因みに雫とあたしの席は前後だ。


「ふふ、今日も湊は可愛いわねぇ…」

「ハハ、ありがと。そういう雫も綺麗だよーいつも」

「湊にそう言ってもらうのは最高の褒め言葉よ」


ニコニコとしながらサラリと少し、いやかなり恥ずかしい言葉をあたしに言う雫。
雫は何故かあたしを褒める。褒めて褒めて褒めまくる。可愛いとか超連呼。抱きつく撫でるなんて日常茶飯事。
雫は一人っ子だから子供っぽいあたしを妹感覚で可愛がってくれてるんだと思うんだけど…雫曰く、“湊溺愛・湊至上主義”なんだそうだ。
褒めてくれるのは嬉しいけれどやっぱり慣れない、照れます…ヨ。


「あ、そういえば湊。今日の朝礼でまたアレ、あるらしいわよ」

「え、またっ!?今度は何やる気なのかな…」

「さぁ…そこまでは流石にわからないわ。ていうか、そういうのは湊の方がわかるんじゃないの?悠斗さん繋がりで」

「悠兄は寮生活で会わないもん。あたしにもわかんない」


今雫に教えてもらった“アレ”とは、生徒会の思いつきのことだ。
時枝学園は自由な教育方針とかで生徒の考えがよく尊重される。
そんな時枝高校の中心組織が生徒会。生徒達の中でも特に生徒会の意見は絶対といっても過言じゃないくらい権力がある。
生徒会の中心はもちろん生徒会長。その生徒会長の思いつきという名の提案があたしたちが入学してから数回あった。

それがまた、今日の朝礼で言われるらしい。
まだ5月の頭だって言うのに…4回目は多いでしょ。

そして悠兄とはあたしの実兄である栗原悠斗のことである。
悠兄はあたしの2個上で、この時枝学園にいる。そして今話した生徒会の書記にも所属しているのだ。
生徒会の人は必ず学園側が用意した寮に入らなくてはいけないという、なんとも不思議な規則がある。だから今は悠兄とあたしは一緒に住んでいない。一般生徒でも寮に入ることはできるけどあたしは入っていない。

だから最近悠兄と会っていないあたしが今回の朝礼で何をするかなんて聞けるわけないないのだ。


「あれ、そういえば雫って何でそんなにいろんな情報早いの?いつも疑問だったんだよね」

「さて、何故でしょう」

「生徒会関係だけじゃなくて他の情報も全部雫からあたしは聞いてる気がするんだけど…教えてくれないのー?」

「女には一つや二つの秘密、あった方がいいじゃない?」

「ケチー…」


そんな話しをしていると教室に鐘が鳴り響く。
鐘の音を聞いて教室にいた生徒たちが廊下に出て講堂に向かう。

これから朝礼が始まるのだ。


「さて、鐘も鳴ったことだし行きましょう湊」

「そだね」


そういってあたしたちも講堂へ向かう。

講堂に着けばクラスごとに整列する。
ザワザワとした場の雰囲気が全員整列し生徒会の司会の言葉で静かになり、前に集中する。

――――――朝礼の始まりだ。


『生徒会長からのお話です』


朝礼がスタートして数分、簡単な教師からの言葉を聞いて生徒会長からの話が始まる。

これが生徒会の思いつきの発表だ。
あたしは今度は何が言われるのだろうと内心ウンザリしながら話に耳を傾ける。


『皆さんおはようございます。今回は皆さんにお知らせがあります。このたび―――――生徒会に新役職を追加することになりました』

「…予想外だね、雫」

「そう、ね」


会長のいつもの満面の笑みで告げられたお知らせ。
今まではイベントの企画発表が殆どだったのに今回は生徒会の役職追加。
流石にあたしも、雫もこんなことは予想していなかった。あたしたちだけじゃなく他の生徒や教師たちまで驚きざわついている。


『今回追加する新役職は“生徒会執行隊”です。執行隊とは、主に行事などでの整備や寮の見回りなど警備関係をしてもらいます』

(あ、そういえば―――)


新役職・執行隊。その説明を聞いてひとつ思い出した。悠兄から少し前に電話がかかってきたことを。
その電話で悠兄は最近寮の回りに不信人物が出たから気をつけろ、との注意だった。

………不信人物出現。それがきっかけで今回の思いつきか…。

そんなことを1人で納得して話を聞いていた。


『執行隊ですが、メンバーは我々生徒会と新しく任命する執行隊長の6人で構成することになります。そしてその執行隊長ですが―――――』


新しく選ばれる生徒会執行隊長。誰が任命されるのか、生徒全員が息を呑む。
生徒会は一般生徒が憧れる組織でもある。だけど平凡をこよなく愛するあたしはそんな生徒会は苦手だった。

今回一般生徒で生徒会に選ばれた人は可哀相だなぁ…。
そう思っていたときだった――――――


『1年2組の栗原湊さんを執行隊長に任命したいと思います』


うわー可哀相だな1年2組の栗原湊さん。………………ん、?1年2組の、栗原…湊さん?………ってもしかして、

―――――思考停止。


「あ、あたしぃーーーー!?」

「ちょっと湊大丈夫!?」


あたしは直ぐにその場にペタリと座り込んでしまった。

ちょ、何で!?何であたしなの!?
あたしは生徒会なんていう生徒からも教師からも注目されるようなものに関わる気なんてサラッサラなかったのに!!何で何で何で何で!?

軽くパニック状態のあたしの耳に、爽やかな笑みを浮かべた会長が話を続ける。


『栗原さんは中学の時からやっている剣道での実績が大変素晴らしく、執行隊長に適任だと思われます。それに我々生徒会書記の栗原悠斗の妹で、栗原さんの話は耳にしています。大変信頼できる人だと思い、今回執行隊長の任命を決定しました』


あぁ何でだろう。いつもは爽やかでいい笑顔だと思える会長の笑顔が鬱陶しくてムカついて仕方がない。
……というか、恨む。悠兄を恨む全力で恨むっ!!
あたしの話をあたしのいない場所でしてるんじゃないわよーーっ!!


『それでは、栗原さんの執行隊長任命に賛成の方は拍手をお願いします』


会長の言葉で講堂中に鳴り響く拍手。
……何ですか、この有無を言わせない拍手の嵐は。あたしに拒否権はないってことですね。

………ふっざけんなぁぁ!!


こうして平凡大好きな私の日常はこの生徒会に関わる事で激変していくのだった――――――



END
2011.08.16

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