闇夜にポツンと浮かぶ綺麗な月が見える時刻。
私は家の廊下ゆっくり歩いていた。

向かう先は、おばあさまの部屋…。


「話ってなんだろう。やっぱり明日のこと…?」


ポツリと独り言をこぼす。

夕食の時におばあさまに呼ばれたのだ。眠る前に部屋に来い、と。
部屋に呼ぶということは何かそれなりに大事な話があるということ。
何の話をするのかと考えれば、出てくる答えは一つ。明日の転校の事だろう。

おばあさまと二人きりになって話すのが苦手な私は憂鬱な思いで歩を進める。
そしておばあさまの部屋の前で立ち止まる。


「…おばあさま、志紀です」

「入りなさい」


おばあさまの返事を聞いてから失礼します、と一声かけて中へ入る。


「明日からですね。新しい学校へ行くのは」

「はい。立海大付属中学校、でしたね」

「ええ」


ただ淡々と話を進めていく私たち。
おばあさまとの会話は、いつも淡白だ。


「わざわざ神奈川の分家まで越してきたのです。以前の学校での様な失態は許しませんよ」

「……わかっています」


顔を俯かせて返事をする。今、おばあさまの顔は見れない―――。

私は2ヶ月ほど前まで東京にある氷帝学園に通っていた。
しかし“ある事情”によって氷帝学園を出る事になってしまったのだ。

そして明日から、やっと学校へ行ける事になった。
氷帝学園ではなく、立海大に、だが……。


「今度の学校では軽率な行動は慎み、勉学に励みなさい」

「はい。…あの、おばあさま。テニスのほうは…」

「それは貴女との約束ですからね。好きになさい」

「っ、ありがとうございます」


私は小学生の頃にテニスに出会って、中学入学とともにテニスを始めた。
おばあさまに一つだけでいいから何か好きにやらせてほしいものがあると何度も頼んで始めたテニス。
だけど今回の氷帝での不祥事はテニス部関係の出来事だった。
いくら高校卒業まではテニスをしていてもいいと約束してもらっていても、今回ばかりは辞めさせられると思っていた。

だからすごく、嬉しかった。純粋に嬉しいと思った。


「話はこれだけです。もう部屋に戻って休みなさい」

「はい。失礼します」


おばあさまの言葉を聞いて部屋を出る。
部屋を出ておばあさまの部屋から遠ざかっていくにつれて顔がにやけていく。自分でもわかるくらいに。

この笑いは、楽しみな笑いだ。


「立海でテニスが出来る!テニスが出来ればまた氷帝のみんなにも会える!!」


部屋に入った途端声を出して喜ぶ。

学校にいけないでいた間、まともにテニスを出来た日はなかった。敷地内からはほとんど出してもらえていなかったから。
だから余計に明日の学校が楽しみで楽しみで仕方が無い!
立海といえば全国制覇を成し遂げた強豪校。その学校に、私が明日から混ざれるなんて…!


「学校が、また楽しみになるなぁ」


うきうきと顔をほころばせながら私は眠りに付く。
明日から始まる学校生活、テニスを楽しみにしながら。



第0話 プロローグ



その明日からの学校生活で、また一波乱あるなんて考えもせずに。



END
2011.08.16

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