「翔くん、ちょお重いわ」
さして広くもないソファで、私は隣の彼氏に精一杯の抗議の声を上げた。二人で詰めて座っているから、翔くんはすごく近い。その上一切の遠慮もなしに寄りかかってくるから、その重さで私は潰されそうになる。
「あかんの」
ぐ、っと更に押しつぶされた。負けじと押し返すけど、支えきれずにじりじりと私は斜めになっていく。完全に倒れ込まないのは私の小さな意地だ。翔くんは人前だと何が何でも触れあうような距離に立たないくせに、こうして二人っきりになると割と近い。
「ううん、ほんまは嬉しい」
「意味わからんわ」
翔くんは私にのしかかったまま、呆れたように言った。
本当は、この重さって嫌いじゃない。素直じゃなくて、人に甘えたりするのがびっくりするほどへたくそな翔くんが、精一杯甘えてくれてる結果と思えばこんなに幸せな時間はない。それに、
「翔くんが重たいとね、幸せの重さってこんなんかなって思うんよ」
「ハァ?」
「そやから、翔くんが重たいと嬉しい」
「ププ、何言うとるん」
簡単に鼻で笑われた。我ながらなかなかにロマンチックな表現だと思うんだけど。
「ええよ別に、翔くんは知らんでも。私だけの特権やし」
独り占めしたるからええよー、と憎まれ口を叩いてやった。
翔くんからの返事はない。あれ、おかしいな。どうせまたウザいとか言ってくると思ったんだけど。すっかりいつものことになった、憎まれ口の応酬を始めるつもりだった私は肩透かしを食らったような気分になった。
ぱっと軽くなったかと思うと翔くんが体を起こしたので、つられて私も体を元に戻す。
重たくて温かかったものが急になくなってしまって、ちょっと寂しい。すると、脇の下に手を入れられ、持ち上げられた。えっ、とか声を上げているうちに、そのままずるずると引き上げられ、翔くんの膝の上に乗せられる。なにこれ、どうしたの。
「なんやの、翔くん」
「なまえちゃんは重いなあ、めっちゃ重いわ」
「ひどい!」
女子の体重を重いと言うなんて許さん。数秒前の私のときめきを返せ。
降りようと身を捩じらせると、お腹の前に翔くんの長い腕が回ってきて、ぎゅっと抱きしめられてしまった。そんなこと一つであっという間に抵抗する気力なんかなくなってしまうのだから、私ってやつは現金だ。
「……そやね」
「ええ?」
「……さっきの、ちょっとわかった気するわ」
肩口に顔を摺り寄せて埋める翔くんが、消えそうな声で小さく呟いたから、私も同じように声をひそめながら「そうでしょ」と返す。
やっぱり許す。だから、そういう甘えるとこ、私だけに見せてね。
優さまへ
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