きみには星を贈ろう



「石垣くん、今日誕生日やったんねえ、おめでとう」
「へ、」


同じクラスのみょうじさんに声をかけられたのは、今日の授業も残すところあと一時間、という休み時間のことだった。
なんで知っとるんやろう。そんな話、したことあったかな。
緩みそうな口元を何とかこらえながら思いを巡らせていると、みょうじさんの肩越しに、少し離れた先で井原がぐっと親指を立てているのが見えた。なんやアイツ、俺の誕生日になんちゅうファインプレーかましてくれよったんや。今度なんかおごったらな。

浮かれているのを悟られないよう、努めて何でもないことのように俺は軽く笑った。


「おおきに、みょうじさんに祝ってもらえるとは思てへんかったから嬉しいわ」
「石垣くんのことやから皆がパーティ開いてくれるんとちゃうの?」
「いやいや、この後もいつも通り部活やし、なんも特別なことあらへんよ」
「そうなん?わからんよ、今日はまだこれからやからね」


みょうじさんの声は柔らかくて、ゆったりした話し方なんかも、なんていうか、ええなと思う。この子の醸し出すふわっとした空気が心地よくて、言葉を交わしているとつい自分も緩んでしまうのだ。正直、井原からのプレゼントは今もろてると思う。

でもね、とみょうじさんは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「でもね、私知らんかったから、プレゼントとかもなんも用意してへんのよ。ごめんね」


ええんよ、その気持ちだけで十分嬉しい。たぶん、いつもの俺だったらそう答えていただろう。
だが、今日は誕生日や。俺やって、少しくらい、欲張ってもええんやないか。

あのな、と口を開く。


「プレゼント、くれんでええから、今度買い物付き合うてくれへん?」



みょうじさんはちょっと目を丸くして、長いまつげをぱちぱちと瞬かせた。つい、溜まった生唾をごくりと飲み込む。いや、なんたって、誕生日やし。そういうことで、許してもらえんかな。心の中で言い訳を繰り返してどうにか自分を正当化しようとしたけど、頬に集まる熱は情けなくも収まることはないのだった。
こういうん、やっぱ向いてへんなあ、俺。


それでも、少しの間を置いて、はにかんだように小さく「うん」と答えたみょうじさんに自惚れそうな俺を、責められる人はきっといないだろう。今日だけはそう思わせてほしい。




(石垣くんハッピーバースデーin 2014!)


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