その温さも愛しかった



どたどたと階段をかけ上がってくる音を聞きながら私は口の両端を吊り上げた。ついで勢いよくドアを開けて現れた人影に、ベッドに寝転んだままひらひらと手を振って見せる。


「光ちゃん、お帰りぃ」
「みょうじ!なんで来とんのや」
「だって光ちゃんのおばさんが、なまえちゃん遊びに来てー言うてくれはるから」
「母さんなにしとん…」


練習帰りで少し乱れた髪をくしゃくしゃと掻きながら光ちゃんは眉間にしわを寄せた。それより、と私は入り口の手前で立ち尽くす光ちゃんを手招く。


「そんなとこ立っとらんと早よ入りよ」
「誰の部屋やねん」
「ええやん、幼稚園からの付き合いなんやから」


声を上げて大げさに笑う私とは対照的に渋い表情の光ちゃんは、部屋の中に足を踏み入れはしたものの借りてきた猫みたいに所在なさげだ。自分の部屋なのにね。そのまま私に背を向けるように、ベッドの足元に腰を下ろした。


「ほんまにお前、もう俺らも高校生なんやから軽々しく部屋に入り浸るんやめや」
「えー、なんで」
「そら、やっぱ…俺も男やし、みょうじも軽い奴に思われたないやろ」


昔はなまえちゃん、なんて呼んでくれてたのに、いつからか私のことを学校でも家でもみょうじ、なんて苗字で呼ぶようになった。曰く、もう子供じゃないんだからけじめが必要だ、と。幼馴染なんだから、別に名前で呼び合ってたっておかしくないと私は思うけど。結局単に自分が恥ずかしいだけなのに、いつも大層な理屈をつけてごまかすのだ、光ちゃんは。
まあそれでもいい。そうやって照れるところもかわいいし。


「光ちゃんは意識してくれてるの?」
「いや、その」
「私は、光ちゃんとだったらいいよ?」


ベッドから半身を起して顔を近づけると、光ちゃんはあからさまに耳を紅くして顔を背けた。


「今日学校でな、男の子に告白されたん。クラスも別で、ほんのちょっとしか話したことないような子」
「……」
「光ちゃんのこと、思い出した。光ちゃんに会いたなったよ」


後ろから光ちゃんの筋張った肩に腕を回した。光ちゃんが夢中な自転車のことは全然わからないけど、この鍛えられた硬い背中はとってもかっこいいと思う。ぎゅっと抱きしめて首筋に顔を埋めると、光ちゃんはびくりと肩を震わせた。


「やめえや、女の子がそんなべたべた…お、おばさんに言うで」
「ええよ、お母さんも光ちゃんなら安心やて言うてくれとるから」
「……!」


そうやってからかうんやめえ、と困り果てたように眉を下げるのだ。
それでも、なんだかんだ言って私のこと拒まないでくれる優しい光ちゃんが大好き。



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