〆友


「やっほー!アースト」

いつもの酒場で酒を飲んでいると、片手を挙げながら呼んだ女、飲み仲間であるエマナが来た。彼女とは酒場で出会い、知らぬ間に仲の良い友人となっていた。仕事はカメラマンで毎日カメラ片手に走り回っている。

「今日は何かあったのか?」

「良い写真撮れなくてヤケ酒」

彼女が酒場に来るのは酒が特に大好きだというわけではない。単に仕事のストレス発散としてたまに来るのだ。

「あまり酒を飲み過ぎるなよ。明日に響く。」

「分かってるって。それよりアーストは?また誰かと会う約束でもあるの?」

「いや、今日は俺もヤケ酒だ」

「え!?毎回いろんな企業の人と飲んで話してるアーストでもヤケ酒するのね、何かあったの?」

「俺でも羽目を外す事はある。たまには一人酒も悪くはないものだな」

本当は彼女が来ないだろうかと、どこかでそう思って足を運んだのが的中した。何故その様な行動をとったのかアースト自身分かっていなかった。
隣に座った彼女が注文した酒がカウンターに置かれ、それを両手で持った。

「アーストって、口ではただの遊び人って言ってるけどいろんな人と交流出来て羨ましいと思ってるし尊敬してるのよ。」

「急にどうした。エマナ、もう酔ったのか?」

「あのね、まだひとくちも飲んでないからっ。これは真面目な話よ。」

「…俺がこうしているのは、エレンピオスに住む人がどのような考えや暮らしをしているのか気になったからだ。尊敬される程ではないが」

「そうやって他国なのに時間を費やしてエレンピオスを知ろうとしてくれているのが凄いの!私には他国であるリーゼ・マクシアなんて行けない…」

「戦で父親を亡くしたからか」

「でも!みんな嫌いってわけじゃないわ!リーゼ・マクシアもエレンピオスも人は違わない、勿論アーストだって信頼出来る。けど政府は信じられないの」

父親を亡くし、それ以来リーゼ・マクシア人を良いとは思えないと頭の中で拒絶する。そんな他国の王だとは彼女に言えないまま口を閉ざす。

「ご、ごめんね重たい話して。ささっ飲もう!」

空元気にしか見えない彼女の心の闇を、いつか必ず自分の手で晴らしてあげられる日がくるだろうか。そう思いながら彼は酒を飲み干した。


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