あの日の出逢いをきっかけに、エースと毎日一緒に朝食を食べるようになった。それと同時に、彼の話を聞くことも私の日課に加わった。その内容のほとんどは、エースがしてきたたくさんの冒険の話や彼が「家族」と呼ぶ人達の話。会話の中には、私の頭では想像すらできないような、信じられない話がたくさん飛び出してくるの。驚いた私がその度に質問をすると、

「お前そんなことも知らねェのか?」

と、決まっていつも太陽のような笑顔で笑われた。エースとの会話は私をドキドキさせてくれる。でも、私が世間知らずなお嬢様だということがよく分かってしまうものだから、少しだけ胸が痛むような気もしたけれど。



エースと出逢って、一週間。今日も、いつものように朝食を食べながら彼の話に耳を傾ける。今日の話は、彼の宝物についてだった。

彼の宝物、それは彼の弟と家族。家族の話は以前から聞いていたが、弟がいたなんて初耳だ。でも、何よりも驚いたのは、彼が海賊であるということ。以前、彼が笑顔で話してくれた家族とは、海賊団の仲間のことだったようだ。



「海賊..」


以前、ママから聞いたことがある。この国は、私が産まれる少し前に海賊に襲われたことがあるって。幸い、近くの島に停泊していた海軍が駆け付けてくれたから、被害はそこまで大きくならなかったんだとか。だから、この国の人達は、海賊を憎んでいる。私だって、海賊と呼ばれる人達に対して、何となくだけど良いイメージはない。

この人も、エースも、そうやってどこか他の国を襲ったり、大切なものを奪ったりしているのだろうか。そう考えると、あれほど暖かく感じた彼の笑顔が怖く見えるから不思議だ。



「名前?」


エースの声で意識が戻る。彼の顔に目線を戻すと、不思議そうにこちらを見ている。しまった。考えていたことが顔に出ていたかもしれない。普段は絶対にしない作り笑顔で、何?と笑いかけると、エースは何でもない、と答えた。その日はそのままさよならして家に帰ったけど、エースが海賊だということで頭がいっぱいだった。



次の日、外は雨が降っていた。私は部屋の窓を閉めきって、昼までベッドの中で過ごした。執事が持ってきてくれたランチボックス入りの朝食を、テーブルに置いたままで。









その雨は悲しい歌のように






せめて、私の心も洗い流してくれたらいいのに。










title/Aコース
20110718 mary








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