お城を出て10分後、ランチボックスを片手に、私は立ち尽くしていた。 エースと名乗った男の元までやってきたのはいいが、彼と私の間にある岩場を見て足を止めた。ハイヒールにドレス姿の自分とそれを見比べて、思わず溜め息が出てしまう。威勢よくお城を飛び出してきたものの、こんな格好のままで来てしまったことを心底後悔した。どうやって向こう側まで渡ろうかと頭を抱えていると、そんな私を見兼ねてか彼が口を開いた。 「何考え込んでんだ、お前。」 「どうやってそっちへ行こうかな、と思って。」 「そんなん、ジャンプしてくればいいだろ。」 「こんな格好じゃ無理ですよ。」 彼は不思議そうに私の方を眺める。それから少し何か考え込んで、口角を吊り上げて笑った。 「何だお前、オジョウサマってやつか?」 ―オジョウサマ。 少し馬鹿にされたような言い方に何だかちょっとカチンときて、思わず彼を睨みつけた。そんな私の不機嫌な様子を察したようで、彼は少しすまなそうに笑った。 「お前、ちょっとそのまま待ってろ。」 そう言って船から出てくると、いとも簡単に岩場を渡ってみせて私の側までやってきた。そしてそのままひょいと私を担ぎ上げ、船まで戻ったのだ。 「わ..」 「ん?大丈夫か?」 私はびっくりしたのと恥ずかしいのとで、思わず俯いてしまった。お姫様のくせにお姫様抱っこなんて初めてだったし、何て言うか、その..男の人の腕ってこんな逞しいものなんだと知って、変に意識してしまったから。 「す、すいません。運んでもらってしまって..」 「別にいいよ。それより、ほら..」 「ああ、そうでした。」 慌てて手に持っていたランチボックスを手渡すと、それを覗き込んだ彼が嬉しそうに歓声をあげる。 「うひょー!すげェな!」 そして、サンドイッチに手をかけると、思い出したようにこちらを振り向いた。 「そういやお前、名前は?」 「えっと、あの、名前..です。」 「ふーん、名前か。」 「よ..よろしくお願い、します。」 「おう、よろしくな!俺のことはエースでいいから。」 そう言ってパン屑を頬につけながら無邪気笑うエースに、私は。 月は太陽に憧れ身を焦がす 不覚にも、胸が締め付けられそうになったの。 title/Aコース 201105014 mary |