窓から差し込む朝日で目が覚めた。なかなか開かない目を擦ってこじ開け、時計を見る。

―いつもより、少し遅い。

慌ててベッドから飛び起きると、キッチンへと向かった。



「おはようございまーす。」
「名前お嬢様、おはようございます。」
「今日も、私朝食は自分の部屋で食べるから運んで頂戴。」
「かしこまりました。」


最近では、執事に朝食を部屋まで運んでもらよう頼むことが日課になった。以前は家族揃って食事をしていたけれど、私とパパの仲が悪くなってからは全然。一人きりの食事はとても退屈でつまらない。でもそれは、家族でも同じこと。みんなでテーブルを囲んだって、楽しい話をする人も、私の話を聞いてくれる人もいない。


この家では、例え自分のことでさえ自分で決めることは許されない。

決められた洋服。決められた友達。決められた人生。

そんな毎日に嫌気がさして、今まで何度も家出しようと試みたけれど、結局いつも失敗してお城へ逆戻り。8度目の家出でようやく気付いたことは、家を出たところでこの街にいる限り私は自由にはなれないということ。自由に生きたければ、この街を、この島を出るしかないのだ。

そういえば、昔、窓から部屋を脱走したこともあったっけ。あの時はパパだじゃなくママにも叱られて、それから下が断崖絶壁になっているこの部屋が私の部屋になった。でも、前の部屋よりも海に近いから結構気に入っているの。いつも窓を開けて、どこまでも続く水平線を見ながら思う。いつかあの向こうへ行ける日がきたら、と。



今日もいつものように窓を開け、朝食が運ばれてくるのを待つ。顔を洗い、寝癖のついた髪を直す。昨日着たまま寝てしまったワンピースを脱いで、普段着ているドレスに着替えた。


「おーい!」
「え?」


着替えの途中で声がする。もう朝食が運ばれてきたのかと、急いで着替えをすませドアを開けた。が、そこには誰もいない。何だ、ただの空耳かと首をかしげていると。


「おーい!」


声はドアとは逆方向、部屋の奥から聞こえる。私は声のする方へ方向を変え、窓際で足を止めた。でも、この下は断崖絶壁。人なんているはずない。一度深呼吸してから、恐る恐る窓から顔を出すと、そこには。



「お!やっぱりいた。窓開いてるから誰か部屋にいると思ったんだよな。」
「..あ、ああ..あなた、誰ですか?」
「俺?俺はエース!」
「え、あの、そういう意味じゃなくて..」
「それよりも俺、腹減ってんだ。何か食い物とかねェかな?」


エースの名乗ったテンガロンハットの男は、小さな船に乗っていた。遭難でもしたのだろうか?その割には元気そうに見える。


「あ..ありますけど..」
「頼む!俺にメシを食わせてくれ!」
「いいですけど..でも..」


どうやら悪い人ではなさそうだ。どうにかしてあげたいところだが、お城に見知らぬ人を入れることはできるはずがない。そうなると、残された選択肢はたったひとつ。私が彼の元へと行くことだ。


「えっと、じゃあ..今からそこまで行きますから待ってて下さい。」


悪ィな、と太陽のように笑う彼を置いてキッチンへ走る。初対面の人に何でこんな親切にしているんだろうと、自分でも不思議に思う。ただ、エースと名乗った彼に興味を持ってしまったのは確かだ。


執事に少し多めの朝食をランチボックスへ入れて貰うと、私はお城を飛び出した。気のせいかな、何だか今日はいつもより足が軽く感じたの。









世界は時々美しく輝く






その好奇心は、後戻りなど出来ないくらいに。










title/Aコース
201102010 mary








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