「名前!」



自室へと続く長い長い廊下をのんびりと歩いていたら、突然名前を呼ばれたものだから驚いて思わず足を止めた。いや、止めてしまったと言うべきか。私を呼び止めたこの声の持ち主と、これから起こるであろうできごとを思い浮かべると、最早溜息しか出てこない。足を止めてしまった自分に心底呆れながらも、ゆっくりと後ろを振り返った。



「パパ、お帰りな「何だ、その格好は!」



パパが顔を真っ赤にしながら指差すのは、私が着ている真っ白い洋服。


「何って、ワンピースだけど。知らない?」

「そんなことを聞いているんじゃない。なぜお前がそんな服を来ているんだ!」

「城下町で流行ってるんだって。素敵でしょ?」

「そんな庶民の服..王族として恥ずかしくないのか!」



大理石でできた床に、赤い絨毯が敷かれた廊下。そこをワンピース姿で歩く私。それは何とも言えない光景であり、自分でもとっても不釣り合いな組み合わせだと思う。



「お前の為に用意した服ならいくらでもあるだろう。」



確かに、私のクローゼットにはたくさんのドレスが入っていて、どれも素敵なものばかり。でも、それらは私の心をちっとも満足させてくれない。



「もういい。部屋に戻って服を着替えなさい。その服もさっさと捨ててしまうようにな。」



そう言って、パパは私に背を向けて、凄い足音をたてながら廊下の向こうへと歩いていってしまった。


最近は、パパと顔を合わせる度に怒られてばかり。パパがいつも私に怒ってる理由は分かってるよ。きっと私が、パパの言う通りにしないからだよね。




あのね、パパ。
私だって色々なことがしたいの。


友達を作ってたくさんお喋りしてみたい。流行りの洋服だって着たいし、恋だってしたい。


何もかもパパの言う通りにしなきゃいけないの?自分のことを自分で決めるって、そんなにいけないこと?




部屋に戻って、鏡に映る自分の姿を見る。くるりと一周して、もう一度見つめた。いつものドレス姿じゃないというだけで、まるで別人になったみたいだ。それが何だか嬉しくて、思わず笑顔になる。




―今日はこのまま寝てしまおう。


そう思いながら、ベッドの横の窓を開けた。風が顔に当たる。それが気持ち良くて目を細めていると、暗い空の向こうに小さな赤い光が見えた。



「流れ星..?」



燃えるような光はゆらりと揺れながら、海の上を動ている。そのままそれが水平線へと消えていってしまう様を、わたしは無意識に目で追っていた。だって、あんなキレイな光、今まで見たことない。私が持っているどの宝石も、あの自由な輝きには敵わないわ。


窓を閉めると、冷たい部屋にパタンと小さな音が響いた。その音があまりにも乾いていたから、思わず泣きそうになって、私はベッドに潜り込んで目を閉じたんだ。









手を伸ばせどもそれは掴めずに






せめて、一瞬でも触れたいと願う。










title/Aコース
20110126 mary








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