大通りに人々の声が響く。

華やかな街。
建ち並ぶビル。
目の前に広がる、どこまでも続く人混み。

こんな賑やかな島に上陸するのは、本当に久しぶりだ。マルコ隊長が言っていた通り、大きな街だなあ。

ここ何ヶ月かは買い物らしい買い物ができなかったので、今回の上陸ではショッピングを楽しむことにした。



「あ!あれ可愛い!」


そう言ってショーウィンドーに近づこうとすると、人波に押し返され、なかなか前に進めない。


「あ..」


いつもなら、ここで―。



無意識に出てきた思いに、思わず俯く。いつもならこんなとき、あの大きな手が私の手を引いてくれるはずだから、と。



「..もう帰ろ。」


一気に冷めた気持ちを吐き捨てるように呟き、人混みにくるり、背を向けた。溜め息をつきながら来た道を辿る。


買物袋を持ちながらの帰り道。私の頭を廻るのは今朝ケンカしたのこと。海に沈んでいく夕焼けを見ながら、エースを想って歩く。

朝のケンカも、お互いの意地の張り合いだった。本当は些細なことだったのに拗れてしまって、結局そのまま仲直りできずにいる。



ねえ、エース。

ケンカなんかする程のことじゃなかったよね。今ならわかるのになあ。何であんなにムキになっちゃったんだろう。本当はいつも通り、優しく笑う二人でいたいのに。本当はエースのこと、凄く大切に想ってるのに。なかなか思い通りにいかないよ。どうしてかな?



「..大嫌いだ。」


こんな自分が、嫌になる。



ビルから吹き抜ける風がやたらと冷たくて、何だか涙が込み上げてくる。服の袖でゴシゴシと拭っても拭っても滲む視界。惨めな自分。でも、自業自得か。何だか、もう、笑うしかないや。

そう思って、道に転がる小石を思い切り蹴り上げた、そのとき。


「大嫌いって..それ、まさか俺のことじゃねェよな?」

「え?」


頭上でした声に顔を上げると、そこには見慣れたテンガロンハット。その持ち主は眉間にシワを寄せながら、悲しそうな顔で私を見つめる。


「そろそろ、帰ってくるんじゃないかと思ってた。」

「エース..」


彼はその大きな手を私の頭に置いて、優しく撫でながら寂しそうに笑った。


「名前、朝はごめんな。」


違う。そうじゃないの。


「あんなことで怒るなんて、大人気なかったよな。」


私、あなたに、そんな顔させたいんじゃない。


「悪かった。」

「違うの。私が..」


私が悪かった。

涙に邪魔されてその一言が言葉にならない。



するとエースは優しく目を細めながら、私の涙をそっと指で拭うの。


「いや、俺が悪かった。」


そして、私の荷物をひょいと持ち上げて、もう片方の手を差し出して。


「さ、名前帰ろう。」


そっと私の手を握るから、私もその大きな手をぎゅっと握り返した。


「暖かい..」

「そうだな..」


繋いだ手の狭間から、エースの優しさが伝わってくる。


「エース、ごめんね。」


私がそう言うと、エースは笑って繋いだ手をそっと握り返した。



ねえ、エース。
大好き。本当に大好きなの。この想いが、繋いだ手から伝わればいいのになあ。

そんな想いを込めながら、強く、エースの手を握り返して歩く。



さっきはあんなに冷たく感じたビル風、もう、少しも寒くなんかない。








あなたの手とわたしの手





繋いだ手と手に絡まるのは、私からあなたへ贈る愛だから。










project/「涙墜」様に提出
20101124 mary








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