月曜日。



「なあ、そろそろ俺と付き合わねェか?」



ここは船長室。甲板に置きっぱなしだった本を届けに来たはずが、理解に苦しむこの展開。

そろそろ?今までそんな雰囲気になったことがあっただろうか?



「..キャプテン、私のこと好きなんですか?」

「気が付かなかったのか?」

「全く。」



本を届けにきたことを心底後悔した。全く、この人の気まぐれにはついていけない。



「遠慮しておきます。」



笑顔で返しドアに手をかけた。すると、入れ墨だらけの腕に掴まれ足が止まる。



「面白れェ。」



私の腕を引き、彼はぐいと顔を近づけた。



「7日以内にお前を落とす。」

「..大した自信ですね。失礼します。」



捕まれた手を振り払い部屋を出る。やれやれ、厄介なことになってしまった。そう思いながらも気持ちの方は冷静で。今出てきた部屋を振り返り、ゆっくりと自室に戻った。




火曜日。

眠たい目を擦りながら、甲板へ。眩しすぎる日差しに一瞬目が眩んだ。左手でそれを遮り、メインマストを見上げる。



「お疲れさーん、キャスケット!見張り交代。」

「..おー、名前。サンキュー。俺はもう限界だ。」



読みかけの本と双眼鏡を片手に梯子を登った。本を開き、続きを読みはじめること1時間。瞼が重くて、本のページを捲る手が止まる。揺れる船に身を任せ、そのまま素直に目を閉じた。



「..あれ?」



気づくと膝には一枚のブランケット。右肩には、いつもと違う重さを感じる。目をやると、私に寄り掛かり眠るキャプテンの姿。きっとこのブランケットは彼がかけてくれたのだろう。普段では見ることのない優しさに、つい笑顔になる。藍色の髪にそっと触れるが、彼が起きる気配はなくて。太陽に抱かれながら眠るのも悪くない。キャプテンに寄り掛かり、もう一度目を閉じた。




水曜日。

昨日の晴天とは打って変わったような雨模様。こんな日は読書に限る。それに、昨日は昼寝であまり本を読めなかったから。そんなことを考えていると、ドアをノックする音が。


「俺だ。」



ガチャリ、という音の向こうには眼鏡をかけたキャプテン。いつもと違う雰囲気に、心臓が一回、大きくはねた。



「お前が持ってる本、貸してくれ。」

「どうぞ。そこの本棚にあるんで勝手に見て下さい。」



入るぞ、と言うと、彼は真剣な顔つきで本棚を物色し始める。しばらくすると、お目当ての本を見つけた様子。そのまま部屋を出ていくかと思ったら、私の隣に腰掛けた。



「..どうしたんですか?」

「ここで読んだら悪ィのか?」



彼はそう言うと、開いた本に目を落とす。



「キャプテン..眼鏡かけるんですね。」

「何だ、惚れたか?」


違います、と否定したものの。なぜだろう。口角を上げ笑うその顔に、気持ちを掻き乱されるんだ。外から聞こえる雨音だけが響く部屋。二人だけの静かな時間が流れていく。




木曜日。

いつもより遅い時間に食堂へ。テーブルにはキャプテンの姿。目が合うとこっちへこいと言わんばかりに手招きされる。



「こんな時間に珍しいな。」

「本読んでたら遅くなっちゃいました。」



彼の目の前に腰かけると、ほらよ、と一枚の皿が出てきた。



「これ何ですか?」

「俺が作った。」



その上には、真っ白なケーキ。



「名前、甘いモン好きなんだろ?」



そういえば前にそんな話をした記憶もなくはないが。まさか、覚えてくれていたのだろうか?



「いただきます。」



おいしいです、と言うと、彼は目を細めて優しく笑う。いつもと違うその表情に驚いた。


「それじゃ、俺は部屋に戻る。」



もしかして、私がここに来るのをずっと待ってくれていたのだろうか?ひらひらと手を振りながら食堂を後にする彼を見る。いつもより心臓の音が速くなっていくのを感じた。




金曜日。

夏島に上陸。島で見つけた酒場では、みんなビール片手に宴会状態。私もいつものようにグラスを片手にその輪に入る。

ただ一つだけ、いつもと違うのは、無意識にキャプテンを目で追っている自分がいること。隣にいるペンギンの話も上の空だ。



「全く、名前は分かり易いな。」



キャプテンと何かあっただろう?笑いながら話すペンギンの言葉を平然と否定してみせるが、心臓の音は相変わらずうるさいままだ。そういえば、今日はキャプテンとまだ一度も話していない。昨日のケーキ、美味しかったな。お礼が言いたかったけれど、しょうがない。

途中、キャプテンがこちらを見て笑ったような気がした。腕には綺麗な女の人が絡み付いている。何だか分からないけれど、胸の辺りがモヤモヤするような。いやいや、そんなはずはない。キャプテンが誰と何をしようと、私には関係ないもの。

左手に持つグラスにはウイスキー。謎のモヤモヤと一緒に、一気に飲み干した。




土曜日。

頭が割れるように痛い。きっと昨日のウイスキーのせいだろう。ベッドで頭を抱えていると、ドアをノックする音がした。



「入るぞ。」



開いたドタの向こうに立っていたのはキャプテンだった。



「二日酔いだって?ペンギンから聞いた。」



馬鹿だな、と口角を上げ笑う彼を見ると、込み上げてくるのは愛おしさに似た柔らかい気持ち。完全に振り回されている、この人に。頭が割れるような二日酔いが、何よりの証拠だ。



「すみません。早く治します。」

「気にするな。治るまで一緒にいてやるよ。」



船医は俺だからな、といつかのように優しく微笑む。頬にのせられた手から伝わるのは彼の体温。それが心地好くて、眠たくなって目を閉じると。



「好きだ、名前。」



頭上から、低くて甘い声がして。細くて綺麗な指で髪を梳かれ体温が上がっていくのが分かる。くらくら眩暈がしたのは、二日酔いのせいだろうか?それとも。




日曜日。



「なあ、そろそろ俺と付き合わねェか?」



ここは船長室。椅子に腰掛ける俺の前には、名前の姿。



「キャプテン、私のこと好きなんですか?」

「気が付かなかったのか?」

「いえ、知ってました。」



そう言うと、お互い顔を見合わせる。何だか可笑しくなって、二人揃って笑ってしまった。楽しそうに笑う彼女の笑顔は本当に愛しくて、今すぐ抱きしめたいところだが、返ってくる返事を待つ。



「そうですね、付き合ってみるのも悪くないような。」

「..素直じゃねェな。」



細い名前の手を引くと、体がこちらに傾く。そのまま抱き留めると、腕の中に丁度収まった。



「好きですの一言くらい言えねェか?」

「そんなぁ。」

「言うまで帰してやらねェぞ。」



腕の中でもがく名前の頬にそっと触れる。

見張り台で寝たふりをしていたことも、わざわざ眼鏡をかけて部屋へいったことも、苦手な料理をしてみたことも、わざと他の女を隣に置いたことも、一度距離を置いてからわざと優しくしたことも。今までの俺の行動が、全部計算だと知ったら、コイツはどんな顔をするのだろう?



「キャプテン、好き、です。」

「あァ知ってる。」



真っ赤になって俯く名前の瞼にキスを落とすと、彼女は一瞬目を大きくしたが、嬉しそうに目を細めるんだ。俺を見上げるその顔に、もう我慢はできなくて。今度は唇に顔を近づけると、彼女はそっと目を閉じた。








7日以内にお前を落とす





最後は結局こうなることを、俺は初めから知ってたよ。










project/「絶対に振り向かせてみせる!」様に提出
20100723 mary








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テーマ「人外ファンタジー」
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