「眠れないや。」


ふらふらと夜の甲板に出てくると、
冷たい風が頬を掠めた。

こんな気持ちのいい夜なのに眠れないのは、
きっと、頭に浮かんでは離れない大好きな人のせい。


「こりゃ重症だ..」


ため息をひとつついて、その場に寝転んだ。

知りたい。
近づきたい。
触れたい。

でも、怖い。


「エース..」


好き、大好き。
この気持ちを今すぐにでも叫びたいけれど。

でも言ってしまったら、二度と今の関係には戻れない。


「こんなに好きなんだけどなあ..」


今日もマルコに相談してみたものの、
「まあ、そのうち何とかなるよい。」
とだけ言って、ろくに話も聞いてもらえなかった。



「へぇ。何がそんなに好きなんだ?」


頭上でした聞き覚えのある声に、思わず飛び起きる。

そこにいたのは、私の大好きな人で。


「びっくりしたー、エース脅かさないでよ。」

「寝れないのか?」

「んー、まあね。」

「俺も。」


エースは私の隣に座ると、海をぼんやり眺め始めた。


「名前にも、」

「え?」

「名前にも、好きな奴とか、いるんだな。」

「..とりあえず。まあ、片想いだろうけどね。」


甲板には、二人の声と波音が響くけど、
それより自分の心臓の音の方が煩くて。

この音が、どうかエースに聞こえていませんように。


「エースは、」

「あ?」

「エースは、好きな子とか、いないの?」

「..いるっちゃいるけど。
 でも、どうやら俺も片想いらしい。」

「ふーん..」


眉を寄せて海を見つめるエースを見て、
胸の奥が痛んだ。
自分で聞いたクセに、何勝手に傷ついてるんだろう。


ねえ、そんな悲しい顔しないでよ。
エースの想いを独占しているのはどんな子なの?。

ねえ、お願い。
私を好きに、なって。



「俺は名前が好きだからさ、
 そうなると俺も片想いってわけだ。」

「え?」

「お前、マルコが好きなんだろ?」


今日も二人で話してたもんな。
そうふて腐れたように話すエース。

急な展開に頭がついていかない。
エースが私を好きってこと?


「エース、あの..」


誤解を解こうと口を開けば、彼の唇で塞がれて。
噛み付くようなキスに呼吸ができない。

息苦しくなって肩で息をすると、
彼は酸素不足で涙目になった私の瞼に優しくキスを落とした。

それから、そっと私を抱きしめて、
息がかかりそうなくらい耳元に唇を寄せると、
その低くて甘い声で囁くの。


「なぁ、俺にしとけよ。」


一体この男は、何を勘違いしているのだろう。


「名前、好きだ。好きなんだ。」


今すぐ誤解を解いてみるのもいいけれど、
必死な彼が何だかどうしようもなく愛しくて。


だから。

ごめんね、エース。
後もう少しだけ、このままで。








愛しくなる言葉





ねえ、私の目には最初からあなたしか映っていないのよ。










title/Aコース
20100711 mary








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