声が、聞こえた気がした。



思わず振り返ってみるが、そこにあの人の姿はない。


そりゃそうだ。
彼は、ゾロは3日前からこの船にはいないのだから。


いつも隣に感じていた彼の体温はなく
ただただ秋の夜風が肌にしみる。


2日もあれば帰ってこられると言っていたが..
やはりどこかで道に迷っているのだろうか。

迷子になった彼を容易に想像することができ、
何だか笑えた。



ふっと息を吐いて見上げた星空。

こんなにも星がきれいな夜なのに、
考えるのはあなたのことばかり。


ねえ、ゾロ。

たった3日で、こんなにもセンチメンタルになった私をみたら、
あなたは笑うかしら。







ジリジリジリ..



波の音に紛れて電々虫の音が聞こえる。


「もしもし。」


聞こえたのは、

「おう。名前か。」

私が一番大好きな声で。


「..ゾロ?」

詰まらせながらもかろうじで声を発すると、

「あァ?何つー声出してんだ?」

と笑った声が、受話器の向こうから聞こえてきた。



「まだ帰って来れないの?」

「ちょっと..その..道に迷っちまってさ。
 でも大丈夫だ。明日には帰る。」

「..また迷子なの?」

私が笑って言うと、うるせー、と返ってきた。
少し拗ねている様だ。

ふて腐れているゾロを想像すると、
何だか妙に可愛く思えてきて、
自然と笑顔になった。



「名前こそ。」

「え?」

「そんなに俺に会えなくて寂しいのか?」

「そんなことないもん。」

「正直に言わねェと、帰っても構ってやらねェぞ?」

「..いじわる。」


ゾロの意地悪くも甘いその声に、頭が痺れる。


ああ、私はこの声に逆らうことはできないんだ。



「..寂しいよ。だって、ゾロが隣にいないから。」



受話器からかすかに聞こえる静かな笑い声は、
波の音に掻き消されていく。




「名前。」

「何?」

「帰ったら、キス、100回な?」


耳が熱い。
体の体温が、一気に上がっていくのが自分でも分かる。



もうダメだ。
会いたい、触れたい、我慢できない。


さっきまで喉元で我慢していた言葉を飲み込むことは、
もう、できなくて。



「ゾロ、すきよ。愛してる。」



ねえ、はやく、はやく会いたいよ。



「ああ。俺も名前を愛してる。」



耳元を掠めたその声に、くらくらと眩暈がした。








会いたくなる言葉





渇いた唇、数え切れないキスで満たして。










title/Aコース
20100711 mary








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