睫毛に、ひらり、何かが触れた。

瞼に感じた冷たさに瞬きをして、空を見上げる。空から舞い落ちてくるそれは、今度は私の頬を掠めてじわりと溶けた。



「雪..」


掌を空へ向け差し出して、指先に触れる雪を見つめる。綺麗は結晶が熱で溶けて水となり、足元にぽたりと落ちる。その雫が甲板からの光に照らされて、星のように輝いた。

視線を落とすと甲板の奥からゆらりと赤い光がひとつ。じっと見つめていると、その光は少しずつこちらに近付いてきて、私の前でぴたりと止まった。



「そんな格好で、風邪引くよ?」

「大丈夫。寒くねェよ。」


目の前にいるテンガロンハットを被ったこの男は、そう言うと子どものように笑う。それを見ると、私は何とも言えない気持ちになるのだ。


また、だ。


いつだってそうなのだ。エースは、昔から一点の曇りすら見えないような顔で笑う。でも、昔のままの少年のような表情とは反対に、年を重ねるごとに低くなった声や私より高くなった背、どんなときだって守ってくれる背中。どんどん変わっていくエースの姿に、いつの間にか目を奪われている自分がいることに気付いてしまった。だからと言って、私達の関係が変わるということではない。昔から何一つ変わらないまま。



「どうしたの?こんな夜中に?」

「誰かさんが一人、見張りで寂しいかと思って。」



今日は大晦日。今船を泊めているワの国は、新年になると、神様が住んでいる神社と呼ばれる場所に行くそうだ。そこで神様に祈りを捧げると、願いごと叶えてくれるとか。毎年、年越しの神社は参拝客で大いに盛り上がるそうだ。そんな話を聞いたクルー達が黙っているはずはなく、神社とやらへ行ってくると言い意気揚々と出かけて行った。



「エースも行ったのかと思ったよ。」

「俺はいいよ。神は信じねェから。」

「ふーん。」



雪が降ってきたせいで、少し寒い。掌に息をかけていると、エースが大きな手で私の掌をそっと握った。


「え..」


思わずエースを見るが、彼は何も言わないまま。暫く二人、黙っていると、ひらひらと舞う雪の向こうで鐘が鳴った。



「あ..オックス・ベル。」

「違ェよ。これは除夜の鐘って言うんだ。」

「何で知ってるの?」

「今日行ったメシ屋のオヤジから聞いた。」


ワの国の新年って変わってるのね、と私が笑うとエースも優しく笑う。



「なあ、名前。」

「ん、何?」


雪に混じって、人々のざわめきが遠くで聞こえる。


「俺達、ずっとこのままなのかな?」

「このままって?」

「今までみたいに、ずっと友達でいなきゃならねェのかな?」



彼に目線を移すと、いつもとは違い真剣な目で私を見つめている。ああ、いつの間にこんな大人びた顔をするようになったんだろうか。



「俺は名前と手ェ繋いだりとか、キスしたりしてェんだけど。」


そう言うと、エースはきつくきつく、私の手を握る。


「好きだ。ずっとお前を守りてェ。」


そして、私を引き寄せて、優しく抱きしめた。



「エース、わたしは、」


除夜の鐘が鳴り終わったそのとき、私の唇にエースの唇が当たった。







はっきり言って、すき





だって、あなたは私の運命のひと。










project/「落日」様に提出
20110101 mary








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