「マルコのばか!もう知らない!」



目の前で繰り広げられる惨劇に、唖然とする。

鬼のような形相のナースと、頬を思い切り叩かれたマルコ隊長。私、隊長に書類を渡しにきただけなのになあ。このタイミングの悪さには、自分でも呆れてしまう。思わず顔をしかめるが、もう遅い。



「あ..」



2人はようやく私に気づいたようで、沈黙。うーん、私は一体どうすれば。そんなことを考えていると。



「..名前、行こ!」

「え?」


ナースに腕を引かれ、ぐらり、体が傾いた。よく分からないまま隊長の部屋を後にする。何これ。私、もしかして巻き込まれてる?



「ちょっ..ちょっと!」



廊下をずるずると引きずられ、彼女を腕から引き剥がそうとする。が、彼女の目には、涙。



「だって..マルコが..」



震える声に、私は何も言えなくなる。

私もいつか大好きな人と、エースと、こんな風にケンカするときがくるのかな。彼女と自分を重ねてみると、不思議と分かる、女心。眉を下げ、彼女の頭を撫でるたその時。背中の方から声がした。



「あれー?名前じゃねェか。何してんだ?」

「エース..」



浮かない私の表情に気づいたのか、首を傾げてこちらに近づいてくる。



「ん?何やってんだ、お前ら。」

「実は..」


簡単に事の成り行きを話すと、エースは彼女の腕を掴んで、何も言わずに今私達が来た道を引き返して行く。



「何するんですか、エース隊長!」

「ちょっと、エース!」

「おい、マルコ。」



勢いよく扉を開けたエースは、彼女をマルコ隊長の前に差し出すと、一言、静かに呟いた。



「..好きな女、泣かすんじゃねェよ。」



その表情はテンガロンハットに隠れて見えなかったけれど、何だか辛そうな、それでいて怒っているような、そんな風に見えたから。私は黙って彼の手にそっと触れることしかできなかった。

マルコ隊長は一瞬目を大きくしてから、困ったように目を細めて笑うと、ナースの髪にそっと触れる。



「..俺が悪かったよい。」



そういうと、彼女に優しくキスをする。何だか見ているこっちの方が照れてしまって、どうしていいのか分からなくなってしまう。困り果てた末に、ふとエースを見上げると。彼は優しく笑い、その大きな手で私の小さな手を引いて、扉の方に足を向けた。




「はー..」



エースと廊下を歩いていても、頭に浮かんでくるのはさっきの情景。



「..何考えてんだ?」



ふと、エースが足を止める。



「さっきの、マルコのことか?」

「え?ああ..マルコ隊長の生チュー、凄かったね。」

「他の人のそういうの思い出されんのって、彼氏としてはあまり面白くねェな。」

「え、あ..ごめ..!」



いきなり肩を掴まれ、引き寄せられた。私の唇に当たるのは、エースの唇。



「どーだ。」



そう言って、はにかみ笑う彼を見ながら、顔に熱が集まってくるのを感じた。やばい、もう動けない。そんな硬直している私の頭を撫でながら、エースは楽しそうに言うんだ。



「名前、ごめんね。俺が悪かった。」



その笑顔が私を更に動けなくしてしまうということを、果たして彼は分かっているのだろうか。








全思考ジャック





私の思考回路、あなたに侵食されていく。










title/hmr
20100815 mary








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