雲ひとつない青空。 吹き抜ける潮風が気持ちよくて、寝ぼけた頭も冴えてくる、そんないつもと変わらない朝。頭上からカモメの鳴き声がしたので見上げてみる。何だいつもの新聞屋か、と落ちてきた新聞を拾い上げると、その間に紙切れが一枚挟まっていた。 これは一体何だろう?と引っ張り出してみると、そこに印刷されているのは見慣れた顔で。ああ、またか、と放り出そうとしたが、慌てて紙に目を戻す。 あれ、何かいつもと違う。 「いち、じゅう、ひゃく、せん..」 下に書かれている数字を数えてみると、2の後ろに0が8つ。 「2億..」 紙に印刷されたのは、口角を上げ笑うローの顔。彼にこの話をしたら、きっと同じ表情で笑うだろう。そんなローの姿を想像すると何だか笑えて、思わず船長室へと足が動く。 「ロー、いる?」 入れ、とだけ声がしたので扉を開けると、目に入ったのは、ソファーに寝転がるローの姿。どうせまた、夜遅くまで医学書でも読んでいたのだろう。 「おはよう。相変わらず寝起きが悪いね。」 そう言って笑うと、うるせェ、と不機嫌な声が返ってきた。 「で、俺に何の用だ?」 「ちょっと、見せたいものがあって。」 ポケットから取り出した紙を彼の目の前で広げて見せると、彼は一瞬目を大きくしてから、いつものように口角を上げ笑う。 「..2億か。」 「おめでとう、ロー。」 嬉しそうに手配書を眺める彼を見ていたら、自然と自分も笑顔になった。 「あ、そうだ。」 思いついたように声を出せば、ローの目線が手配書から私に移る。 「何だ?」 「懸賞金が2億に上がったお祝い、何がいい?」 私にできることならなんでもしてあげる、と微笑む私に、彼は悩む様子ひとつ見せず、それどころかさらに口角を上げ、笑うんだ。 「そんなもん決まってるじゃねェか。」 ローとの距離が一気に縮まる。 「名前、お前が欲しい。」 そう真っ直ぐ言い放つ、彼の顔は真剣で。 次の瞬間、頭より体が先に動いてしまった私の唇が、彼の頬に触れた。思わずキスしてみたものの、ローと目が合い自分の顔が真っ赤になっていくのを感じ、何だか恥ずかしくなって俯く。すると、入れ墨だらけの腕がそっと背中に伸びてきて。 「名前。」 優しい声で私の名前を呼ばれると、顔の温度は更に上昇。ああ、もう。これじゃあ恥ずかしくて、まともに顔なんか見られないじゃない。 俯いたままの瞼にそっとキスをされ、そっと見上げてみれば、そこにはいつもと違う、優しい顔で笑うローの姿。思わず彼の背中に手を回し、目の前の胸に顔を埋める。 「ロー、好き。大好き。」 こんなに優しい顔で笑うローを見るのは初めてだったから、何だか彼がとても愛しく思えたんだ。 「俺はお前を愛してる。」 私の背中に回した腕に力を込めると、彼はいつも通り、口角を上げながらこう言うの。 「でも、キスされるなら、」 頬よりも唇がいい 不器用な君のキスが、愛しくてしょうがないのさ。 20100718 mary |