シャボンディ諸島、1番グローブ。


恐怖に足が竦む。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。たった数時間前までは、大好きな人の隣で、幸せな時間を過ごしていたのに。船上で気晴らしに歌っていたら、急に視界を奪われて。気がついたときには手に枷がつけられ、最早、私に自由はなかった。



「気に入ったぞ。コレクションに加えてやる。」

「え?」



急に聞こえてきた声に驚き振り向くと。



「て..んりゅうびと..」

「お前の歌声が気に入った。お前は私の物だ。」



顎を掴まれ、顔を引き寄せられると、今まで味わったことのない嫌悪感に襲われた。



「..や..めて。」



助けて、ロー。キスで唇を塞がれ、その言葉は声にならなくて。唇で感じた不快な体温に、吐き気がして堪らなかった。


嫌だ、嫌だよ。

私が求めている温もりは、こんなものでは、ない。目の前に広がっていく絶望感に、ただただ眩暈がした。







シャボンディ諸島、2番グローブ。


ここまで歩いてくる間、何人もの人とすれ違ったのに、天竜人に腕を引かれながらも助けを求める私をみんなただ離れた所から見ているだけ。


もう、だめだ。

今回ばかりは相手が悪すぎた。私が泣こうが喚こうが、この先起こるであろうできことに、何も変化はないだろう。



「ん?何だお前は。」



天竜人の声に反応して顔を上げると。そこには最愛の人の姿。込み上げてくるこの感情を、一体何と呼べばいいのだろう?



「ロー..」



視界がぐるりと回ると、彼の胸に引き寄せられていた。



「黙って待ってろ。」



囁く彼の吐息が耳元にかかると、こんな状況だというのに、頭が痺れてくらくらした。



「貴様..私の物に何をする?私は天竜人なるぞ!」

「コイツは俺のモンだ。手ェだすんじゃねェ。」



そう言うと、彼は刀を取る手に力を入れた。







シャボンディ諸島、ハートの海賊団船長室。


「ロー、ごめんなさい。」



本当は嬉しいはずなのに。只々、胸が苦しくて息ができない。もちろん、彼の顔を見ることも。



「何故、お前が謝る?」



目の前にいるローの表情は見えないけれど、声から彼独特の温もりが伝わってきたから、思わず、涙が。



「だって、天竜人に手を出したら..」



私のせいでローが。私なんかのせいで。

足手まといにだけはなりたくない。そう思っていたのに。



「それ以上喋るな。」



ローはそう言うと、涙が伝う私の頬に、優しくキスをひとつ落として。



「..俺の隣からいなくなるんじゃねェ、頼むから。」



らしくない弱々しい声で呟く彼に少し驚き、思わず目を見開く。それをゆっくり細めて、彼をぎゅっと抱きしめた。



「なあ、名前。お前は俺の物だろう?」

「..もちろん。あなたの為だけに私は生まれてきたんだもの。」



私の全てを優しく包む、この両手を離したくはないと心から思った。








世界を敵にまわしても





あなただけについて行くわ。










title/Crash!
20100711 mary








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