静かな廊下に、カツン、と乾いた音が響く。


私の目の前を歩くローの足元から聞こえてくるそれは、段々と速くなっていき、それから荒々しいものへと変わっていった。速く歩く彼についていこうと、私も必死になって歩く。その歩調は、いつの間にか小走りになっていた。

ローの一歩には、私の二歩が丁度いい。いつもはそんな私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる彼だか、今日は違っていた。私のことなど気にも止めず、早足で、ただ先へ先へと歩くだけ。苛立っている様子が背中からも伝わってきて、何だか泣きそうになる。いっそのこと、ついていくのをやめてしまいくらいに。しかし、私の腕をしっかりと掴むローの手がそれを許してくれないのだ。



「ねぇ、ちょっと待ってよ!」


耐えられずに私が叫んだところでその声が彼の耳に届くはずもなく、とうとう船長室まで来てしまった。私が部屋に入ることを躊躇うと、ローは舌打ちをしてから私をひょい、と持ち上げそのまま部屋に入る。バタン、と思い切りドアを閉めた音がしたと思ったら、私はベッドの上に放り投げられた。



「テメェ、どういうつもりだ?」


私を見下ろす彼の表情が、冷たい。ローがこんなにも怒っている、その理由は私にも分かっている。


「待って、あの..ロー、とにかく話を..」

「うるせェ、黙ってろ。」


次の瞬間、彼の唇が私の唇を塞いだ。歯列を舌でなぞられて、息ができない。


ことの発端は、ペンギンから貰ったプレゼントだった。ローが怒っているのは、プレゼントを貰ったことではない。誕生日に貰った物、その内容が彼の逆鱗に触れたようだ。ペンギンがくれた物、それは香水だった。前、島へ上陸したとき一緒に買い出しに出かけたのだが、そこで私が何度も欲しいと呟いていたことを覚えていたのだとか。



「普通、彼氏でもねェ男から香水なんて貰うか?」


今になって考えれば、ローの言い分の方が正しかったと思うし、私のとった行動は軽率だったと心底後悔した。言い訳になるかもしれないが、お兄ちゃんからプレゼントを貰う感覚で受け取ってしまっただけであって、決してペンギンに異性として好意を抱いている訳ではないのだ。



「ロー..ごめんなさい。」

「この匂いがうざってェ..名前、こっちへ来い。」



そう言って彼が私の腕を引いてきた先は、バスルーム。一体何だろうと首を傾げていると、体に冷たいものが当たるのを感じた。



「っ!冷た..」

「その気にくわねェ匂い、全部消してやる。」



シャワーの水が、容赦なく私の体にかかる。体温を奪われ、すっかり冷えきった体に、ローの暖かい手が伸びた。その指先は、微かに震えていたから驚いた。寒いのは私の方なのに、なんでなんだろう?



「ロー?」

「..これ以上、俺を不安にさせないでくれ。」

「不安?ローを?」

「お前を繋ぎ止めておける自信が、ないんだ。」



いつもは自信に満ち溢れているローの口からこんな弱気な言葉が出るなんて、信じられない。私の行動が彼をここまで傷つけてしまったのかと思うと、驚きよりもひどく胸を締め付けられるような切ない気持ちの方が大きかった。ただ、濡れた体でローを抱きしめることしかできなくて、ただただ呟くだけ。

「ロー、愛してる。愛してるよ。」

と。



「ダメだ。そんなんじゃ足りねェ。」



そう呟いたローの顔が、苦しいような切ないような顔だったから。私は彼の睫毛に、頬に、唇に、優しくそっとキスしたの。







ぜんぶあげるよ。だから、





大好きだから、泣かないで。










project/「Hello HElaw!」様に提出
20110501 mary








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