俺の好きな女は、いつでも笑っている。 俺の全てを包んでくれるように、そっと。 でも、その笑顔は俺だけに向けられる「特別」なものではない。この船のクルーの誰もが向けられているもの。 そんな彼女と付き合って、もう半年。 何度も彼女とキスをして身体を重ねてはきたけれど、求めるのはいつだって俺の方。ましてや彼女の方からベタベタしたり、くっついてきたりなんてことは。そんなこと、一度もあったためしがない。 彼女は優しい。でもその優しさは、俺に対しても他のクルーに対しても同じ。俺しか知らない、彼女の「特別」な表情なんてものはない。一緒にいても弱さすら見たことがないんだ。 ただ、いつも優しい笑顔で。 俺を、俺達を、包んでくれる。 それだけ。 近いけど、遠い。 本当は俺のことどう思っているんだろう?と、何度も聞こうと思った。でもその度にどうしようもなく不安になってしまって、結局何も聞けぬまま。 嫌い、と。 そう言われるのが怖い。 俺は、その唇から、俺を拒絶する言葉が出てくることを畏れているんだ。 それならば、少しでも彼女の傍にいられるこの位置で。その瞳に俺が映っているのか分からなくてもいいから、名前、お前の隣にいたいんだ。 「え〜本当に?信じられない。」 廊下を歩いていたら、倉庫の中から大きな声。どうせナースあたりがお喋りでもしてるんだろうと、一瞬止めた足を再び動かそうとした、その時。 「ばか!声が大きいってば!」 聞こえてきた声に、足が止まる。 名前の声。それだけで全身が反応してしまう自分に、思わず苦笑い。 「ごめんごめん。だって名前が可笑しくって!」 「しょうがないじゃん!緊張するの!」 慌てたように大声で話す名前の声。一体、何の話をしているのだろうか。 「だって、どうやって甘えていいのか分かんないんだもん。」 「普通にくっついたりとか?」 「そんなことできない。隊長忙しくて疲れてるんだよ?」 ..ん? 「はあ..エース隊長、苦労してるんだろうなあ。」 「何でよ?」 「名前が素直に甘えないからよ。」 「ベタベタして嫌われたくないの!」 「そんなこと言ってると離れてっちゃうよ!エース隊長いい男だもんねえ。他に女ならいくらでも..」 「そんなのやだ。」 想像もしていなかったこの展開。名前、お前本当は俺のこと.. そう思った時には、もう体が動いていて、倉庫へと足を踏み入れた。 「..名前。今の話、本当か?」 「えっ?わ、たた..隊長!」 思わず目線を反らす名前。明らかに動揺しているのが分かる。 先程まで一緒に話をしていた彼女の友達は、そんな名前見て優しく笑うと、「頑張って!」と耳打ちをして倉庫を後にした。 「名前。」 今まで俺の前で焦った表情を見せなかったのが嘘のよう。とっさに顔を隠そうと俯いたのだろうが、隠しきれなかった耳が赤い。それが無性に可愛くて、思わず抱きしめた。 「..隊長、そんなに笑わないで下さい。」 「無理。だって俺、今すげー幸せだから。」 そう言うと、そっと名前の瞼にキスをした。 名前はくすぐったそうに目を細めて笑い、俺の背中に腕を回す。 「隊長。」 「ん?」 「私、本当はワガママなんです。」 「へえ。」 「隊長のこと大好きで、本当はいつだって独り占めしたい。」 そして、俺の胸に顔を埋めてこう言った。 「好き。好きです、隊長。こんな私でも嫌いにならないで。」 そんな彼女の震える声までもが愛しくて。頬が緩んでいくのを感じながら、両手では抱えきれない程の幸せを噛み締めるんだ。 初めて知ったこと 俺のこと、結構好きなんだね。 title/378 20101105 mary |