「痛っ..」


指を伝う痺れるような痛みに思わず声をあげる。顔を歪めながら指先に視線を落とすと、じわり、絆創膏が赤く滲んでいくのが分かった。珍しくシャチが気をきかせて用意してくれたものだったが、あまり効果はなかったようだ。


怪我をしたのは昨日。

怪我といっても大したことはなく、敵襲に応戦したとき指先を何箇所か切っただけのこと。相手を片付け終わった後にキャプテンが、ケガ人はいねェか?と声をかけてはいたが、この程度の傷をわざわざ見てもらうわけにはいかない。

絆創膏を外してみると、見事に傷口が拡がっている。何も考えず皿洗いなんかしたことを少し後悔した。





「アホ顔して何見てんだ?」



ふいに聞こえた声に驚いて振り返ると、そこには眠そうに目を擦るキャプテンの姿。珍しくいつもの帽子はかぶっていないようで、深い藍色の髪はあちらこちらに撥ねている。

間違いなく寝起きだ。
きっと徹夜でケガ人の処置をしていたのだろう。



「おはようございまーす。」



とっさに手を後ろに隠し、いつも通り笑顔で応える。



「コーヒー、飲みますか?」



食器棚からコーヒーカップを取り出すと、ポットの中にまだ残っていたコーヒーを注いだ。少しだけ砂糖を入れ軽くかき混ぜてから、キャプテンの前にそっと置く。彼は何も言わずにそれに手を伸ばすと、二口だけ飲んでからソーサーに戻し、私の方に目線を移した。


「名前。」

「はい?」

「手、見せてみろ。」



本当にこの人は見ていないようで、呆れるくらいよく見ている。賢いキャプテンのことだ。抵抗したところで全てお見通しに違いない。



「何でもな「船長命令だ。」



私の腕を半ば強引に掴むと、キャプテンはそれを自分の目の前に引き寄せて。



「このケガは何だ?」



いつもより低いその声に、私は何も言えなくなる。



「昨日の戦闘か?」

「..」



黙ったまま、ただ頷くことしかできない私に苛立ったのか、小さな舌打ちが聞こえた。



「俺はケガ人はいねェかと聞かなかったか、名前?」



キャプテンの視線が、いつもに増して鋭く感じた。私がケガを隠したことがお気に召さなかったようだ。どうにか気持ちを伝えようと、口を開けた、その瞬間。キャプテンが突然、私の傷口を舌でなぞるから、思わず顔を歪めた。



「痛っ!」

「うるせェ、消毒だ。」



舌から伝わる熱で、頭がくらくらした。指先から自分の全てが侵蝕されていくような感覚。



「何で、」

「え?」

「何でちゃんと診せねェんだ..」



そう言うと、今度は優しく傷口にキスをする。思わずキレイなその顔に見とれていたら、キャプテンは私の頬にそっと触れ、唇を指でなぞるの。



「さて。」



口角を上げて笑うその顔が、だんだん私に近くなる。



「言うこと聞かねェヤツにはお仕置きが必要だな。」



その低くて甘い声に目を細めると、呼吸すら忘れた私の唇に彼の唇があたった。








微糖のキスで幕開け





口内に広がる苦さと甘さは、まるであなた自身のようで。










title/hmr
20100925 mary








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