「え、財前って、ドギー…じゃん…」

若干後退りしながら言った半田の言葉に、松野は至極当然というふうに頷いた。二人しかいない放課後の教室。座った机はただただ無機質。窓の外で降っている雨のせいで、それは酷く冷たく感じられた。

「当たり前でしょ。ただの一般人にしてどうするのさ」
「だけどさ…」
「半田は見たくないの?」

渋った半田も、先の松野の一言で黙ってしまった。松野の言っていた事は別に嘘ではなかったからである。松野の計画のえげつなさを半田は思ったが、今の彼にはそれを止める度胸も理由も術も無かったのだった――…しかし、表では松野に従いながら、半田がいまいち乗り気ではないのも、まあ事実だった。

「お前って、趣味悪いよな」
「なんとでも言いなよ」

何食わぬ顔で言った松野はやっぱり趣味が悪い。半田はじっと雨の向こうに目を凝らした。まだまだ梅雨は明けぬようである。

(財前って何組だっけ?)










相変わらず煩わしい雨だ、と塔子は窓の外を見ながら考えていた。ついこの間まで、妙な強さで照り付けていた太陽は一体どこにいってしまったのか。机の上に頬杖をついた腕はすっかり冷えてしまった。気に入らない。

一之瀬一哉という少年は、あれから頻繁に塔子に関わってくるようになっていた。廊下で会う時、合同授業の時、それに、最近は塔子が昼食を一人で食べているのを知ってか知らずか、毎日のように昼になると彼女を連れ出しに来ていた。正直少し五月蝿いような気もしないことはないのだが、それでも、何週間前よりかは塔子の気は晴れていた。



「財前さん」
彼女の気を思考から引き戻したのは、聞き覚えのある、いやに落ち着いた声だった。目を上げれば夏未がいた。
「夏未」

「一之瀬君とはどう?」
「どうって…どうもこうも、最近毎日のようにちょっかい出してくるんだけど」
「…そう」


「何か用が「忘れては駄目よ」
いつかを彷彿とさせる話の遮り方であった。夏未の何かを言いたそうで言わない瞳は久しぶりで、塔子は僅かに怯んだ。夏未がその隙を見逃すはずもなく、気をつけなさい、と畳み掛けてきた。

「黒だけじゃないのだから」

雷門夏未は下唇を噛んでいた。
それだけよ、なんて、到底真実には聞こえなかった。




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