「ほら、帰るぞ、マルコ」

グラウンドの端に座っていたマルコに、声をかけたのはジャンルカだった。マルコがそのジャスパーの、大きな瞳でジャンルカを見上げれば、彼はどうやら一瞬たじろいだ様だった。その真意をマルコはわかりそうでわからない、という事に、している。

「フィディオは?」
「もう帰った」

ぶっきらぼうに、お前が遅いから、とジャンルカは愚痴をこぼした。マルコはさてはて、何故この少年が世の女の子にモテるのか分からないと、思うが口には出さない。

(そんなこと言ったら怒られちゃうもんね)

そんな骨折り損なことはしたくない。
まあ実際、女の子、の前ではジャンルカは先程のような表情はしない。愛想良く、親切で、笑顔を振り撒いているジャンルカ。そんな人間がモテるのは、当たり前といえば当たり前である。


「あ、荷物持ってきてくれたんだ」

彼は荷物を二人分持っていた。ジャンルカがそうだよ、馬鹿、と不機嫌そうに言えば、マルコはジャンやさしー、なんて調子良く言ってそれを受けとった。

話は戻るが、別にマルコは自分の立ち位置が嫌いなわけではない。ジャンルカに笑顔を振り撒かれるなど今更想像できないし(したくもないし、第一有り得ない)、そんなに愛想を振り撒かれたいわけではない。
マルコはジャンの事が――女の子の前で笑顔を被っているジャンルカではなく、自分と一緒にいる時の彼が好きなのだった。


『いつもそんな顔してれば良いのに』
いつだったかマルコがジャンルカに言った日には、女の子に怖がられるだろ、と怒られた。
その時少し、マルコは名も知らぬ女子に嫉妬を抱いた。ちなみにそれも言っていない。


「マルコ」そんな彼の、かつてのしじまに小石が投げ入れられたのは何時だったか。苛々していたマルコがその場の感情に流されて「マルコ」ジャンルカに殴り掛かった日の時か、はたまた練習日には絶対にマルコを置いて帰らない「おい、」彼の事に気づいてからか、もしくはマルコの視線の真意にきっと気づいているだろう彼が、それでも「聞こえてんのか、マルコ」きっぱりとした拒絶は示さない事に驚いた時からか。マルコは――


「マルコ!!」


「っ!? な、なに?」
「帰るぞ」

ごめん、とマルコは慌てて立ち上がる。背を向けたジャンルカは心なしか不機嫌そうだった。

「ごめんジャンルカ――怒ってる?」
「…怒ってない」
「ほんと?」
「…本当」

(ちょっと…怒ってる…)
決して短い付き合いではないためそれくらいはわかる。後ろ姿で割と感情がわかるくらいには、だ。


「…ジャンルカ、パスタ食べにうち来る?」
恐る恐る言った言葉に、ジャンルカが微かに笑ったような気がした。怒りは解けたのだろうか。

「…行く」
「やった!」

とりあえずマルコは、このシャイな隣人のことが大変好きなようだとまた確認した。マルコは彼を大切にしたいと思うわけで、思いを伝える日はまだまだ遠そうだと苦笑した。





:隣人
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