一も十も
絢爛に咲く名前も知らない花の前を通り過ぎた。緩やかに迫る黒紫の夜は、彼に早く帰れと言っているようだった。
ヒートはまだ来ない幼なじみを迎えに行っていた。今日は一緒に帰ろう、と確かに言われたはずなのに、当の本人は未だ待ち合わせの場所に姿を見せなかった。約束の時間はとうに過ぎていて、早く帰路につかなければ日が暮れてしまうだろう。だから彼がいるはずの教室へ向かっていた。道は一つしかない為、彼が出てくればすれ違うだろうから、茂人は待ち合わせ場所を案外簡単に離れた。
(遅い…)
「すまーん」
向こうから見知った顔が歩いてきた。あれは間違いなく晴矢である。
「遅いよー」
手を振れば彼も同じように返してきた。
「すまん、先生に捕まって…」
「晴矢、また何かだしてなかったの?」
「うっ…その通りです」