死を恐れるのは当たり前だと、少なくとも俺は思っている。
俺は、俺以外にも、当たり前といえば当たり前になっているが――、昔も今も、たまに生き物を殺す。果たして回数等数えてはいないが、きっと両手でも足りない。人間を殺したことは当たり前だが無い。せいぜいあるのは昆虫辺りだ。

「総帥は、死を怖れていたのか、俺には判らない」
鬼道は言った。口許は考え込んでいるのだろう、酷くきつく結ばれているように見えた。

「言われたんだ。総帥は、もう自分の残りが決して永いものでは無いと、ある時気づいて――振り返って歩いてきた道を見て、それで、このまま死ぬのが怖くなったんじゃないかって」

「それ、誰に?」
「源田…俺の、チームメイトだ」

その源田と呼ばれた彼は頭が良いのだろう、とフィディオは直感的に感じた。
(彼も、監督の事を知っていたんだ)

その事実をありありと感じた。顔も知らない鬼道のチームメイトに思いを馳せる。一度会ってみたいものだった。


監督は果たして、どのくらい自らの死について予感し、考えていたのか。
今となっては知る術はないが、今フィディオは、唯監督がそこに存在していたという事を実感していた。そして、隣できつく口を結ぶ鬼道も、まるでそれを思っているかの様だった。
うだるような思考、ままならない意識。それを断ち切ったのは、唐突に漂ってきた匂いだった。


どこかで何かを焼いている。鼻を擽る煙の臭いに、立ち上るそれを思い浮かべ、フィディオは頬を伝うものに意識を寄せた。
俺は今も生きている、


「…鬼道、帰ろう」

もう死の縁に用はない。彼と歩き出した。

かの人への別れは、二人とも告げないままだった。





:火葬




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企画『Funeral』さんに提出

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