雷門夏未から渡された服は昨日で着るのをやめた。彼女からは朝不満そうな顔と少しのお小言を言われたが、塔子としてはそんなことなど気にならないくらい、昨日の一件で存外ダメージを受けていたのだった。


生来彼女は細かい事を気にしない。その器の大きさ、おおらかさに皆が惹かれる為、友人は多かったし後輩にもよく慕われていた。しかしどうだ。能力持ちだと知れ渡ってから、潮が曳くように皆離れて行った。まだ私だって自分の力を知らない(本当にあるかさえ分からない)、と一人、また一人と、言いようの無い視線だけを寄越すようになった友人たちに言いたかった。


今更、服を戻したくらいで元に戻るとは思っていなかった。そんなのは都合が良すぎると塔子はきちんと知っていた。しかし淡い、消えそうな期待ぐらいは、こめないわけにはどうにもいけなかった。

(分かってた事だけど)

所詮は自己満足である。






部屋の前にある財前、と書かれたプレートを見る。下側の欄はもうずっとすき間風が吹くばかりだ。今回のことで余計に、もうほぼ確実に、その欄の永久空席が決まってしまった。
塔子としては別に構わないような気もするのだが、他の部屋が皆二人ずつなことを考えると、やっぱり少し寂しいような気もした。

一つしかないベットに体を投げ出した。今日は取り立てて何もなかったのに、なんだか、余計に酷く疲れたような気がしていた。



まだ完全に顔が知れ渡ってしまったわけではない為、服を戻したことで少しは風当たりが和らぐかと彼女は思ったのだが――事は大して上手く運ばないものである。




明日のことを考える間もなく眠りの海に沈む。
まだ明ける日を待つばかりの梅雨、――六月だった。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -