「酷い顔」
「五月蝿い」
一体何をしたの、と夏未は眉を寄せて塔子に尋ねた。
「…別に。虐められてる子がいたからちょっと助けただけだよ」
「そうしたら?」
「助けた子にひっぱたかれた」
呆れた、とまた彼女は渋い顔になった。
「あれ程言ったじゃない」
「そんなの知らないよ…」
「馬鹿ね。あなたが戦争に行く人間になった以上、それは人々――つまりは生徒の憧れ。でも一方、畏怖の対象でもあるって話はした筈よ――…」



時間は昼休み。塔子は、古風にも廊下の端に一人の女生徒が同じ学年の女生徒数人に連れていかれるのを見て思わず追い掛けたのだ。

『大丈夫か、お前』
『…ソルに助けられるなんて…どうしてくれるの!』
『え、ソルって』
『気持ち悪い、触らないで!』
一発。ひりひりと痛む頬のことも忘れ、青い髪とスカートを翻し走り去った下級生を見ながら塔子は暫く呆然としていた。

『私が、一体何をしたっていうんだ』





「ソルって何なんだ」
「あら、言ってなかった?」
「全然」

「ソルはあなたたちのような生徒の一般名称よ。…ドギーって呼ばれなかっただけ良かったんじゃないかしら?」
妙に間を空けて夏未は言った。
「ドギーって?」
「ドッグとドラッギーをかけた造語。まあ、簡単に言えばあなたたちへの差別用語ね」
今度は塔子が渋い顔になる番だった。
「ドギー…ね」
言葉を噛み締める。少し切れた唇から生暖かい血の味がした。さっきぶたれた時に切ったのだろう。

あの少女は私のことをドギーとは言わなかったけれど、頬をぶったんだぞ、と夏未に言おうとしてやめた。
彼女はこちらを向いていなかった。




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