どろり、と自分にだけ聴こえる音を立て融解した心は今まで思ってもみなかった程脆かった。抗えない力で引きずり込まれそうになる、錯覚。半田はぐっと息を詰まらせて目を覚ました。
体を折って咳込んだ半田には全く意味が分からなかった。彼には、そのまだ夢心地の中で感じている予感を確かめる術はない。代わりにあるのはなけなしの思考回路と、体の芯まで侵されそうな冷たさだけである。気づくと脚が驚くぐらい痺れていた。自分の脚じゃないような気がして、だがすぐにそれは気のせいだと分かった。
(…びっくりした)
そう、安易に思ってから半田は身体を起こした。嫌な汗が吹き出している脚を見て、彼はとある友人の事を思い出す。
友人の名前は一之瀬一哉といった。サッカーがとても上手い元チームメイトで、最後に見たのは先日あったテレビである。本物の彼とはもう何ヶ月も前に、さよならを言う暇もなく会うことは出来なくなった。一之瀬は遠いアメリカという大国へ行ってしまったのだ。
(あいつは、大丈夫なんだろうか)
先日の試合(勿論サッカーである)、一之瀬は途中でベンチへと下がってしまった。何があったのか詳しくは分からないが、ただなんとなく、半田は嫌な予感がしていた。

しかしその思考を断ち切るように流れ出した着信音。慌てて出ようと携帯を開くと、表示されていた名前は見知った同級生だった。

「半田、明日の練習は?」
電話をかけてきたのは友人の松野だった。彼も半田もサッカー部である。主力のメンバーが色々あっていない今、半田は代理でキャプテンをしているのだった。
「あ …明日は休みにしようか」
「え」
「このところずっと休みなしだったからな。日曜だし、たまには休みでもばちは当たらないと思うんだけど」
「…そっか 皆に言っとくよ」
「さんきゅ、松野」
曖昧に笑った半田に松野は何かを感じたらしい。電話口でおもむろにに黙って、一拍空けて口を開いた。

「もう待つのなんて、止めたらいいのに」

半田は不意に鼓動が揺れたのを感じた。




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