「どうしたんですか、アリババ゙くん。
いつもと変わらない顔で、その人は俺に話しかける。
今日も先に帰ってきたのは俺だった。大してうまいはずのない俺の料理を、この人はいつも残さず食べてくれる。この人は優しい。この人が声を荒げて怒ったりするところを、俺はほとんど見たことがないと言っていい。。この人は優しい。
「なんでもないですよ。晩御飯、昨日の煮物と野菜炒めですけど、他に何か作りましょうか?」
「十分ですよ。着替えますから、早く御飯にしちゃいましょう」
着替えに部屋を出ていく彼の音を確認して俺は立ち上がった。台所に行く前に思い出して机の上のノートを片付ける。ノートはぱたりと微かな音を立てた。

育ち盛りだから、、肉もそれなりに、いや結構食べる。誰か友達と晩御飯、なんてことになるとがっつり肉、ということも多々。だけど不思議かな、この人と食べる、というか、俺がこの人と食べたいと思う料理はそんな感じとは反対だ。ついつい野菜、魚。たまに肉。俺、いつからベジタリアンになったんだっけ、と野菜をはみながら錯覚しそうになる。
(茶碗とお椀と、煮物はレンジ。後…)
手慣れたものだ。食事は出来てから、食器を並べて準備するのが一番楽しい。勿論、食べてる瞬間も幸せだけど

「ジャーファルさーん」
もう、後足りないのはただ一人。御飯の準備も俺の準備も出来てしまっている。足りないのは、
「冷めちゃいますよ、はやく食べましょう」
「はいはい、今行きますよ」
ゆらゆらあがる湯気を見つめて。
「アリババくんのつくる御飯は美味しそうですねえ」
ああ、俺は。
「そう言ってもらえると、俺も嬉しいです」
向かいに座った人の笑った顔。俺は半ばこれが見たくて飯を作っている、なんて言ったら、彼はまた笑ってくれるだろうか。

一緒に住み始めて料理をすることが増えた。この人はカップ麺とかファーストフードをあまり好まなかったし、俺も取り立ててそれが好きな訳ではなかったから。(一人でいた頃は三食そういうもの、なんて日もあったが。)
アリババくんは育ち盛りなんだから、栄養あるものを食べないと駄目です、といつだったか怒られたのを思い出す。それからするようになった一応栄養も考えた料理を食べていれば、そのうちこの人の背も追い越せるだろうか。

「いただきます」
「はい、いただきます」
本当は、この人がつくる料理の方が何倍かおいしいのを俺は知っている。でも笑顔で美味しいですよ、なんて言われるから、俺はまた早く帰って晩御飯を作りたくなってしまうのだ。
(もっと料理うまくならないかなあ…)


title:晩御飯
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ふたりとも好き




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